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中学にあがる少し前、横尾が美藤の部屋を尋ねると、いつもは閉まってる家の鍵が開いていた。中に入ると彼の母だった人の部屋の戸が開いていて、中は嵐がおきたようだった。  どうやら美藤の母親は蒸発したようだ。  それでも長く持った方だと横尾は子供ながらに思った。なんせ、横尾は足蹴にこの家に通ったが美藤の母親を見たことがなかったのだ。  美藤は身の回りのものをかたっぱしから壊していった。彼自身が台風なのだ。投げられるものをよけながら横尾はそれをみていた。 「これからどうすんの」 美藤がおさまったのを見計らって横尾は言葉を投げかけた。 「知らねぇ」 「お金は」 「振り込まれてる。金と書類面で困れば相談しろって」 これは父親のことだ。 「連絡とってんの」 「とってないけど、向こうは調べてるんだろ。だから、女が出ていったの知ってんだよ。俺も知らなかったのにな」  美藤と美藤の母の交流はあまりない。母が出ていったのを美藤は、さっき来た父の使いから聞いたところだった。 「そっか」 「狭い部屋にじきに引っ越させられる」 「そうなんだ」 「お前は、もう家くんな」 美藤はそう静かに横尾につげた。 彼の手はひどく傷ついている。それは横尾の手にあるような家の手伝いのあかぎれじゃなくて、喧嘩でできたものだ。横尾はそれは自傷行為の一種だと思っていた。 「いやだよ」  横尾はみごとにぐちゃぐちゃその部屋を眺めた。残骸をみるに、とても小学生の息子がいるような趣味の部屋じゃなかった。 「なぐるぞ」 「どうぞ?」  美藤は横尾の顔を見て嫌そうに顔を歪めると身の回りのものを蹴りあげて自分の部屋に戻ろうとした。  横尾は旅館の一人息子だ。わりと儲けてる旅館の。現在オーナーの祖父は横尾に家を継がせたいと思っている。横尾は器用で子どもながら料理は良くできた。美藤はそれを知っている。彼は横尾のつくる飯が好きだ。だけど、老舗の旅館の長が表立って歓楽街の家と仲良くやるのはよくないことも二人とも知っていた。  横尾は料理が好きというわけじゃない。ただ、きれいにきどったような野菜と、美しく盛り付けられた品のいい品を見るのは好きだ。そう、きれいで美しいものがすきなのだ。 「ゆきちゃん、顔きれいじゃん。背もきっと伸びるよ。そしたら、モデルみたいに相当かっこよくなるよ。俺、それがみたいんだよ」 「変態か」 「きれいなものが好きなだけ。きれいな顔で生まれてよかったな」 美藤は、はぁ?と、ヤンキーみたいな口調で言った。 「俺にかまってもらえるだろ」 「しね」 そう言って彼は横尾を強く強くにらんだ。

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