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横尾が美藤に一年遅れて中学にあがった頃、美藤には急激な成長期が訪れた。きれいな顔だけど生意気で幼い悪ガキから、背が伸びてびっくりするぐらいきれいな少年になった。
美藤はもともと素行が悪く、喧嘩はしてたけど、この頃から、なにがあったのかとんでもなく激しくなった。いつも怪我をしてたし、いろんな噂が周辺を舞った。ただでさえ評判は悪いのに、顔がいいから同級生ならまだしも、年上のおねぇさんとかに誘われたりで下半身関係もみだれて、取った取られたで。中三にあがるまえには、やくざに何回も喧嘩売って、かたぎじゃない悪事を働きまくっている、なんて噂が公然の事実になっていた。中学卒業したら、そのままやくざになるっていうのが、定説だった。
こんなガラの悪い地域で、有名な男なのだから、からまれるのは当たり前で、家がこんな場所なのだから帰りたくないのも当たり前で、美藤の心が荒んでいくのは当然で。どうしようもない悪循環だ。
その間もずっと、横尾は美藤の部屋に通った。美藤はいたりいなかったりだが、怪我をしてくることが多い。それをとめることもせずに横尾はただ通った。相変わらず、横尾は合鍵はもらえずにいたので、合鍵はないってことにした。
それでも、美藤は行けばちゃんと鍵を開けてくれる。
暴走する猛獣を止めることなんて自分にはできない。暴れるだけ暴れたらそのうち、収まるだろう。ちゃんと収められるように、そのための収める場所に自分がなればいい。
その日は、横尾がインターホンを押す前に中から、女の人がでてきた。
女は横尾に気づくと、怒った顔をなんとか戻して、でも何も話すことなく、出ていった。
この寮は外部の人は入れないから、女はこの寮の住人だ。若い男の子がかわいくて遊びたいという人種の女は、時々、美藤の部屋におとずれる。
それ関係でも美藤は何度かもめている。
「ゆきちゃんは、ほんと節操なしだね。だれでもいいの?」
横尾は部屋に入った。美藤は半裸で寝ている。
「風邪引くよ」
今は冬だ。美藤の腹筋をさわると暑くも寒くもなかった。
「くんなって、行ったのに」
「そうだね」
もう横尾は何回も、来なくていいと言われてる。でも、美藤は鍵を開けるのだから、それは、来ていいってことなんだと横尾は自己解釈している。今日は女の人が開けたけど。
「ゆきちゃん、最近学校行ってないでしょ。ゆきちゃんは、今年留年で退学で、やくざ行きって噂がいま、流行ってるらしいよ」
美藤は近くの公立の中学に通っているがとんでもなくガラがわるい。それでも、去年ははまじめに通っていた。それが最近また不登校気味だと前島からも横尾は聞いていた。
「なんだそれ」
「俺も知ってるんだから。かなりでかい噂になってる」
横尾は美藤とは違う私立のエスカレーターの中学に通っていた。
「やくざになんかならないのにね」
「なんで、そういいきれんの」
「だって、裏のお仕事きらいじゃん」
美藤は黙る。
横尾は美藤の白い肌を見ていた。美藤は、日中、外に出ないので肌がとても白い。でも地味に筋トレが趣味だからそこそこ筋肉はある。もともとかもしれないが力も強い。肌には喧嘩するから、よくみると怪我がいくつかある。
美藤はその横尾の目線に気づいた。
「やめろとか言うのか」
「言ってほしいの?」
「お前を殴っていいならやめるけど」
美藤は本当に暗く笑った。
横尾はどうして美藤に自分がここまでしまうのかわからない。よせばいいのにと思う場面も、もうこの頃にはいくつもあった。それでも横尾はこの部屋に足を向ける。美藤が鍵を開ける部屋に向かうのだ。自分の子育てが失敗したから美藤はここまで荒れてしまったという気持ちと、まだまだなんとかなるから見捨てたら駄目だという気持ちと、ただの友人なんだからいろいろ考えすぎだろうという気持ちがないまぜになる。
「いいよ」
横尾の口はいつのまにかすべっていた。
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