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久しぶりのゲームはなかなかに楽しくて疲れた横尾は家に帰ってベッドに寝転んだ。寝ころんだ下のベッドは難波のベッドだけど、いないときはよく使っている。ごろごろしてるとと、ふと、なにか忘れてるような気がした。  その時、机にずっと起きっぱなしだった携帯が震えた。あわてて手に取ろうとしたら鳴りやんだ。ラインみたいだ。手にとって見てみると依田が飯食ってるところだった。バーベキューのようで、デカイ肉を持っている。そう言えば依田は結構金持ちだといっていた。 スルーして、他の履歴を見たけど、新しいものはなかった。 「すねたかな」  昨日かかってきた最新の着信履歴は前島と名前を入れていた。前島の携帯だから前島がでるだろう。予感が当たっていれば、まだそばにいればいいのだが。  通話のボタンを押した。しばらく呼び鈴がなる。 「出ないな」 10のコールを数えて切ろうとしたときにコールが先に消えた。 「あっ、もしもし前島さん?」 呼びかけの声に電話の向こうの人は応答しない。 「それとも、ゆきちゃん? 久しぶり。昨日電話くれた? なんか用事?」  無視が答えだ。 美藤は去年、休み毎に地元に帰ってきていた。彼の住む寮の部屋は彼が出て行って新しい女の子がはいってしまったが、前嶋が美藤に甘く、帰ってきている間は管理人部屋に泊まっていた。それを彼の父親が知ってるのか知らないのかはわからない。  美藤は今、前島の家にいて、昨日は前島の携帯から電話をかけてきたのだ。  電話の向こうの人間が美藤だと決めつけて横尾はいつものように能天気に話しかける。 「ほっとかれて、さみしかった?」 「死ね」  ようやく出た返事の声は低くいかにも怒っている。美藤の声が本当に久しぶりに感じた横尾は感極まりかけたが、その内容に苦笑した。仮にも一か月ぶりの会話なのに、死ね、しかもわざわざ折り返ししたのにひどい。 「ひでー」 「……」 美藤は横尾の声に戸惑っているようだった。それもわからなくはないと、横尾は再び苦笑した。 「そっちはどう?」  どうでもいい会話をキャッチボールする。美藤のけだるげで怒ってる声の調子が懐かしい。しばらくなんとなく話した後、美藤は考え込むように沈黙する。 「本当に会う気ねえのな」  美藤は低い声でそういう。美藤はもともと地声が低く怒ってなくても怒っているみたいだが、横尾はその声が怒っているのでなく、困惑しているのだとわかった。  前島から、自分が学校をエスカレーターで行かないどころか祖父と喧嘩して家に帰ってないことを聞いたのだろう。相当驚いてこうして電話をかけてきたに違いない。  先に理不尽な別れを告げたのは自分だ。それなのにけなげに電話をかけてくれるなんてなんてかわいいのだろう。 「どう? 俺、見つかりそう?」 そこで横尾は意図的に言葉を切ってから続ける。 「それとも探してない?」  返事がないということは彼は探して無いのかもしれない。 「ヒントもねぇのかよ」  横尾はほんのたまにだす美藤の弱い部分をとんでもなくかわいい思う。実際には脅しのように聞こえる文句と声色でも、横尾は簡単にノックアウトだ。いつもならそれしきのことででろでろにあまやかす横尾だが、我慢する。 「ねぇよ、バカ。必死で考えろ」 電話を切った。  寂しくなる心を振り切るように、横尾は久しぶりの愛する人との電話は甘美だなと、くさいことを思った。 「探してないんだな」  それでも、やっぱり美藤の声は脳内を回る。 美藤は自分がまさか同じ学校にいるとは知らない。

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