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続・GW 1

 休みだとかゴールデンウイークに限らず美藤のゼミは忙しい。教授がある分野の一任者で忙しい人なのでゼミもいつもせわしない。 去年までは前島がうるさいので帰っていた。それにあいつも何だかんだで俺が帰るのを待っていたはずだ、と美藤は自分に言い聞かせていた。でも今年はどうだろうか。 「ゴールデンウィークだけどみなの予定はどうかな?」 教授がパソコンとにらめっこをやめてコーヒーに口付けた。これはしばし休憩の合図だ。教授は六十手前だけど、とても溌剌としてる。真っ黒の髪はもっぱら染めてると噂だ。 「研究です」 大学の院生はみんなうわ言のように呟いた。教育実習前で学部生が忙しく抜けているので、雑用係りがおらずこの時期は特に忙しいのだ。 「美藤君は?」 「まだ、決まってません」 「じゃあ、帰りなさい。高校生は親に顔見せてやらんとね」 教授は早婚だったらしく、美藤と同じぐらいの孫がいて大の孫好きだ。デスクに飾られた写真は長髪をバンドで止めたサッカー少年で、チャラい感じもかぶるのかもしれない。   美藤には帰りを待つ親はいないが、それをここで言う必要はない。視線の脇で先輩方が雑用が消えて落胆するのが見えたが、教授にこう言われてはしかたない。 「はい。じゃあ帰らさせてもらいます」  こうして、美藤は帰ることになった。 帰ると言っても、もう家はない。寮に越すときに荷物は捨てるか、持ってきたので、もと居た部屋は女が使っている。 風俗の女の社員寮といっても普通のマンションだが、出入口のすぐ脇にある窓口に管理人がちゃんといるのはいまどきめずらしいかもしれない。呼鈴を押して、しばらくするとカーテンがあき、男の人が顔をだした。大げさにびっくりという表情がつくられる。 窓も開けられた。 「帰って来たのかい? おかえり」 「いいから入れろ」 「ひさしぶりだね、どうぞどうぞ」  自動扉が開いたので抜けて、すぐ脇の部屋に入った。そこは寮の管理人室で、ソファと机が置かれていて応接間となっている。 「しばらく、泊めろ」 美藤のぶっきらぼうに無愛想な言葉にも管理人の、前島は笑っている。 「どうぞどうぞ、大歓迎しますよ」 管理人の前島は背が高く優しそうな外見をしている。ここの管理人をしつつ、在宅で美藤の父親の会社の経営にも携わっている。この寮に住む女たちの相談もよく受けているそうだ。 「由樹君、背また延びた? かっこいいね」 「べつに」 「僕がもうちょっと若かったらな」  美藤は無視して我が物顔で応接間を抜ける。奥は前島の住居で台所と居間と座敷が三角形に並んでいる。  部屋の奥の座敷で美藤は荷物をおろし寝転んだ。  前島は座敷で寝ているので、美藤が寝ころんだ横には布団が畳まれていた。 「襲われちゃうよ?」  前島はにこにこしながらそう言った。 「死ね」 前島はいわゆるゲイだけど、美藤は彼が本当に自分を襲うなんてまるで思っていないし、前島もそもそも冗談である。 「ゆっくりしていきなさい」  前島は美藤に声をかけると、仕事場にしている応接間に戻った。 一人で美藤は力を抜いて、天井を見上げる。電気のひもがプラプラと浮いている。別に帰ってきたかったわけじゃない。でも教授に言ってしまったし、それを聞いた藤原がプラモ作るから部屋貸してというのにうなづいてしまった。  それにどこへ行くにも金がない。あるにはある。毎月父親が多額のお金を振り込んでいる。だが、それを使うのは気が引けた。ここなら宿泊と食事はタダだ。だからしかたなくここにきたのだ。  なんにせよ疲れた。美藤はこの際、七組の編入とゼミでこきを使われたのを休もうと、眠りの世界にはいった。

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