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 物音がして美藤は目を覚ました。もう夜の手前になっていた。 「起こしたかな、ごめんな。お腹空いただろ?」 低血圧の美藤はぼんやりと起き上がる。髪を乱暴にかいて乱した。 前島はそばの台所で料理をしている。後姿が台所を行ったり来たりしている。ぼんやりと起き上がって居間のラグの上に移動した。テレビをつけた。なにもすることがない。いつも帰ってきたら何をしてたっけ。 美藤はテレビと反対の台所を振り向く。前島がグリルをあけると良い匂いがした。 「なあ、」 「なんだい」 前島はすぐに美藤に気づいて振り返った。 「……」 美藤はいいかけた言葉を引っ込めた。  あいつは来なかったか、と聞きそうだった。美藤は一気に目が覚める。それだと自分がさみしいみたいだ。 「できたから、運んで」 前島の声がかかり、美藤は自分の感情をシャットアウトした。  夕飯は中華風の野菜炒めと焼き魚だ。 「学校ではちゃんと食べてる?」 「まあまあ」 「お金遠慮せすに使えばいいんだからね」 「使ってる」 実際に美藤はお金をそれしか持ってないので生活費にあてているが、忙しいのもあいまって無駄遣いはしないし、ご飯もめんどうで抜くことも多い。前島は、その状況を知っているのかのように軽くため息をついた。もしかしたら、美藤のお金の管理は前島の仕事なのかもしれない。ますます自分の父親は、美藤由樹という人間に興味が無いようだ。 「そういえば、やっぱり横尾くん、帰らなかったみたいだね」  前島はきれいにほぐした魚の身を食べている。  美藤は食べるのをやめて、むせることをなんとか回避した。お茶で口の中を一旦洗う。  それを見計らって前島は口を開いた。 「横尾くん、お祖父さんと喧嘩して家、追い出されたって話だよ」 「は?」 横尾はあまり自分のことは話さない。ただ親とは仲がよいとは聞いていた。だから、家を継ぐ気何だと勝手に思っていた。 「あいつが家を継がないのか?」 「詳しくはわからないけどそうみたい。親とは仲いいみたいだから連絡とってるのかもしれないけど。でも、お祖父さんの怒りが覚めるまでは帰れないんじゃないかな?」  情報はそこまでなので、前島は食事を再会する。明らかに美藤が機嫌を変えたことに前島は気づいたがつっこまなかった。 美藤は小さい頃からずっとほっとかれている。誰かに頼るということを思いもしないし、相談するということも考えたこともないのを前島は知っていた。 前島が美藤に出会ったのは彼が中学校に上がる少しまえだ。そんな多感な時期にこんなとこに住まわせるなんてと当時は思ったが、本人のスレ具合に前島の世話焼き心が目をだした。 それが美藤にとって、どれぐらいの効果になったかはわからないが、休みには帰ってきてくれることを前島は嬉しく感じている。それでも自分は美藤にとって自分のことを傷つけない人物と認識されているだけで、頼られてるわけじゃない。  そんな美藤が唯一、心を許しているのが横尾仁志という少年だった。その彼と美藤がもめたことを前島は横尾本人から聞いていた。それを聞いた時とても残念だが、仕方ないと思った。そもそも美藤の横尾に対してのあつかいはなかなか乱暴だったから、いつもひひやひやしていたのだ。横尾は別に美藤を嫌いになったわけじゃないと言っていたが、できれば美藤を見捨てないでほしいと思う。  前島はなにもできない状況にため息を吐いた。でも、二人の間に入ってなにかするというのは、余計なことになるのだろう。とりあえず自分は美藤を迎え入れるぐらいしかできないのだ。

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