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球技大会 1
「そういえばもうすぐ球技大会だね」
水筒に紅茶を持ってきている新見が湯気を立てながら飲む。いつものように昼ご飯を依田の机を囲って食べていた。
「そうだね。何の球技するんだろう」
「高等部は、バスケとサッカー」
東の問いに依田が答えた。
「一年は前座みたいな感じだけど。今年は不作って言われてるし」
「不作?」
「あんまめぼしくかっこいいやつがいないってこと。カリスマ感がないみたいな」
「失礼だな」
と言って、横尾は依田の唐揚げ弁当の唐揚げを取った。依田は怒るけど怖くない。
「確かに。美浪はこんなにかわいいのにな」
東は素なのか新見の頭をなでた。新見は微妙な顔をしている。
「そうだね。凌くんも、実はイケメンなのにね」
「俺はそんなことないけど」
東は照れたのか顔をむけた。新見は確かにかわいいし、東もそこそこイケメンだけど、少し地味だ。一年生は横尾の見立てではかっこいいのはわりといるがみんななんとなく地味である。
「騒がれるより、平和でいいだろ」
「いや、こっちが平和でも、球技大会は対戦チームによっては平和じゃなくなるから。凡クラスが生徒会メンバーのいるチームとあたったら地獄よ。今年は運動できるし、まじめなメンバーが多いから全員出るんじゃね」
「さすがくわしい」
「これでも新聞部ですから。そういや、ヨコ、知り合いいるんじゃなかった? 見つかるかもよ」
「いや、行事嫌いだろうから、でねーよ」
筋トレがシュミだった気がするけども、本人は運動嫌いだと言っていた。よくわからないやつだけど、汗かいてさわやかにスポーツはくそ似合わない。
GWからもう数週間が立った。前に聞いた声は記憶から薄れてきている。もうそろそろ探し出してほしいところだけど、自分の希望通りにはいかないだろうなと、横尾は憂う。自分から別れを告げて、探してるのか、なんて連絡はできない。普段はポジティブな横尾だが、なにも音沙汰がないので、少しだけ不安を感じたりもした。
確かに自分はたくさんの愛情を注いできて、美藤はいつだって受け入れてはくれていた。だから、自分は拒絶されていない存在だったはずだ。でも彼が求めてくれるという絶対的自信はない。
所詮は自分のわがままだ。横尾は何回目かの後悔をため息にのせた。
球技大会の日が来た。球技大会は梅雨のさなかの開催で、快晴ではないけど、雨も降らなかった。ただ、むしむしとして、運動日和かというとそうでもない天気をしている。
サッカーを選んだ横尾と新見と依田は、やっかいなクラスとはあたることなく一回戦で敗退した。見学はどこをしてもいいということで、依田は新聞部の人と行ってしまった。本来なら、一回戦を勝ったらしいバスケの応援に行くべきなのだけど、他で今、対戦中のカードが人気らしく体育館は熱気がすごくて引き返して来たのだ。
横尾と新見の二人は校舎の陰に隠れて、遠巻きにサッカーの試合を見てた。
「ヨコの探してた人いた?」
熱さで、参ってるのか、いつもは小動物的な元気さを持ってる新見は今日はだるそうにしている。
「いや、やっぱ、さぼってるんだと思う」
ここの学校の人気生徒への反応もそろそろ慣れてきた。美藤もそこそこ人気だろうから、近くにいたらきっとわかるだろう。
「残念だね」
「いないと思ってたから、さほど」
「ヨコって、結局その人に会いたいの? 会いたくないの?」
「なんで?」
「僕なら、離れてると寂しいなと思って」
新見がめずらしく、だれてるものだから、少しのかなしそうな表情がとてつもなく物悲しい。彼にも、なかなか会えない人というのがいるのだろう。
「会いたいに決まってるじゃん」
物悲しさが横尾にでんぱして、あふれた。横尾は本当に幼いころから、美藤とずっと一緒にいたのだ。寂しくないわけない。
さいしょは、余裕ぶって、隠れてやろうと思っていた横尾だが、こんなじめじめした空気だからか、じつは、ちょっと姿でも見れたらと思ってたのか、なんだか、自信が急に落ちている。
「おれ、愛されるより愛したい派だけど、たまには愛されてるって感じたいんだよ」
なさけない声が出た。
「情熱的だね」
「わがままなだけだけど」
「珍しく弱気?」
「やっぱ会ってないからさ、探してないんだろうなと思うと、ちょっと寂しい」
「見つけてくれないと、もう別れちゃうの?」
「どうだろ。俺も寂しがりでしつこい男だから、なんだかんだで、許しちゃうかも。でもそうなったら長くは続かないんじゃないかと思っちゃうんだよね」
新見はかわいらしく疑問マークを頭につける。
「難しいね?」
「まぁ、見つかったら、探せとか言っといて同じ高校とか、からかってんのかって、たぶん殴られると思うから、そんなに早く見つからなくてもいいんだどさ」
まったく根拠のない妄想だけど、見つからない場合より、見つかっ手殴られる妄想の方がはかどって、ちょっとだけキモチが浮上する。
「バイオレンス。怪我しないようにね」
「一応、気をつけるよ」
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