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新しく試合が始まった。サッカーのコートは二つあって今度の試合はどちらもなかなか観覧が多い。新見は向こう側のコートで同室の人が出てるということで見に行った。横尾は人混みもしんどいし、座ってる位置の日影が減ってきたので、日影を探しにふらふら歩く。体育館のわきを通ると、体育館はまだ盛況のようで入れなさそうだ。窓からボールとシューズのキュッという音が聞こえてる。
少し歩いてついた部活棟の日影には誰もいなかったので、横尾は腰を下ろそうとすると、一つの扉があいた。あかぬけた感じがする少年というよりは青年という人と目が合った。天白高校は学年が校章ぐらいでしか判断できないので、ジャージだと学年がわからない。それでもたぶん上級生だろう。
青年はサッカーボールを持っていて、リフティングをしようとして、失敗した。思いっきり宙に飛んだボールを横尾はキャッチした。
「ごめん、ごめん」
青年は愛想よく近づいてくる。
「いえ、暇してたんで」
横尾はボールを渡した。
「ありがと。いやー、クラス一回戦敗退したんだけどさ、せっかくの行事だし、暇だからもっと遊ぼうと思って。友達いないけど、とえりあえずボールを拝借したんだ」
青年はにこにことしているが、言っていることは寂しい。
「そうですか。なかなかさみしいですね」
青年のグラデーションになってしまった茶髪が風でなびく。見た目も表情も気安いかんじだ。初対面の下級生にこうやって話しかけれるのに、友達がいないなんて不思議だ。
「そう。さみしい。唯一の友達も負けたからもう帰っちゃった」
「白状ですね」
「ほんと」
「じゃあ、俺とちょっと遊びますか」
「ほんと? うれしいー」
青年が手を挙げたので横尾も手あげてハイタッチした。青年のテンションはたかいが、嫌な感じではないし、せっかくの球技大会だから、これぐらいはしゃぐのもいいかもしれないと横尾は思った。
「よし! 行くぞー! さがれさがれーー」
青年がボールを落としたので、横尾はその場でさがって、そこからは一緒に蹴り合いをした。
昼前に、二人は疲れたこともあって解散した。そんな気はなかったけど、よく動いて疲れた。
横尾はいつものメンバーと合流した。バスケの方は三回戦敗退で検討したそうだ。
「一年でここまではよくがんばったと思うよ」
偉そうに依田がうでをくんでいる。
「お前、関係ないだろ」
「三回戦は試合応援したよ? 東は三試合全部出てたんでしょー。すげぇ頑張ったね」
文科系と思われていた東は意外と体育もいけるなら、かなりハイスペックな人間だということになる。
「対して訳にたたなかったけど、体力だけはあるから」
「僕も、見に行きたかったんだけど」
新見は結局、全部勝ち進んだ同室の人の試合を応援したらしい。
「あー、残念だったな。バスケ体育館だから、応援いつもすぐに埋まるらしいよ。新聞部は部活で交代で席取るけど。今年は会長と書記と、人気の二年もバスケに偏ってたし」
「もうそろそろ、そういう風潮にもなれてきたね」
「そうだな」
「そうだな、ってヨコ、もともと男も好きって言ってたじゃん。男漁りとかしないの?」
依田は無駄に手でマイクをつくって、横尾の口元に持って行った。それはすぐに叩いて落とされる。
「しねぇよ。別に見るだけならどこでもいいし」
「そういえば、ヨコどこ行ってた? いなかったよね?」
「陰に涼みに。でも、なんか知らない先輩と一緒にサッカーボール蹴って遊んでた」
「知らない先輩ってなんだよ」
「名前は聞かなかったの?」
依田と新見、ふたりに同時に聞かれる。
「一回戦で負けて、でもせっかく行事だからはしゃいで遊びたいけど、友達いないっていう寂しい先輩がいたから一緒に遊んでた。名前は聞くの忘れた」
「イケメン?」
依田が新聞部の顔をした。
「イケメンってほどではないけど、気さくでおもしろかったな」
もてそうな感じもするけど、変人な感じもする。面白いけど、よくわからない人だった。
依田は新聞部だから校内の事情も人物にも詳しい。もしかしたら特定できるかもしれないが、別に特定するほどのことでもない。
「誰だろ。どういう感じの・・・?」
「別に、学年上だろうし、もう会うことないだろうから、いいよ」
新見が時計を見た。
「そろそろ行こうか」
「みなみ、同室の人まだ、勝ってるんだっけ」
「うん。僕、サッカー行くけどみんなは?」
「体育館は入れなさそうだから、俺もサッカー行くよ」
東に、俺も、と依田が同意した。
「ヨコはまたさぼり?」
「いや、俺も一緒にいくよ」
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