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閑話 1
夏休みが始まって、数日たった。勘当された横尾は家には戻ることもなく、寮で過ごすことになる。難波は終業式が終わってすぐに帰ってしまったので、GWと同様、期間限定で一人部屋になった。同じく新見も依田も夏休みが始まって数日で帰ってしまった。東はいるけど、彼は奨学生なのでやっぱりだいたい勉強すると言っていた。すでに何日か遊びに行ったので、連日おしかけるのも悪い。横尾は難波がノートパソコンを置いて行ったので動画をみたりもしたが、もうそろそろ飽きた来た頃だった。遊びに行くほどの友人はいないし、そもそも誰が寮に残ってるのかがわからない。今まではなにしてたっけと、思い返してみると、横尾は夏休みなどの長期はだいたい美藤の家でごろごろしてた。
別に一緒にいるだけでたいしてなにもしてない。本当に一緒にいるだけだったのに、なんであんなに楽しかったんだろう。
「なにするかなー」
家には戻らなくても数泊いとこの家に行くことになってるが、なんせ夏休みは長い。
暇だと横尾がふて寝してたら、携帯が震えた。
「大量に食材あるからもらいに来ない?」
携帯を開けると東らしい簡潔な文だ。どういう状況だろうか。よくわからないけど食材はとてもあがたい。横尾は東の部屋に向かった。
「おっす」
東の部屋にあがる。東の部屋にはなにかと集まるからもう来慣れている。
「いらっしゃい」
東は、紺のチノパンにTシャツを着ている。彼はいつもカジュアルで好青年な装いでこんな夏休みでも気を抜かないのがすごい。
対して横尾はだいたい寮ではジャージを来ていて、今日も夏使用のジャージとtシャツだ。
「好きなの持っていってよ」
入ってすぐの台所にはパンや野菜が並んでる。
「すげーな」
「冷蔵庫にもあるからさ」
東は困ったように笑った。
「なんか盆前の帰省ラッシュに被る前に帰るやつ多いみたいで、今がこの寮生の帰省ラッシュみたいだよ。帰省する奴らがみんな腐るからってくれたんだけど、ひとりじゃ消化しきれなくてさ」
言われて冷蔵庫を見ると冷蔵庫にもどっさりつまってる。何故か卵が大量にあった。牛乳も何本もある。
「みんなどんだけ卵と牛乳好きだよ」
「ほんとにねー。お腹こわしちゃう」
スーパーでいっぱい売られてるちょっと高めのチンするだけで美味しい惣菜も大量に冷やされていた。これは簡単でうまい代わりにあんまり日持ちはしない。
「なんか、昆布とかご飯にのせる系も多いな。みんな、朝はパンと卵焼いて牛乳飲んで、夜はレトルト食品とご飯なんだろうな。というか、ご飯のおともは1週間ぐらいもちそうだけど」
「何がどれぐらい持つとか、みんなわかんないだろうね」
寮の部屋は全室、小さいけどきれいなキッチンがついてるけど、実際に使っているのは半数にも満たないだろう。
東が大きな袋を出してきたのでうけとった。横尾は牛乳と卵をとりあえず入れていく。
「レトルトは食うだろ。東、料理するよな。何が要らないかんじ?」
彼が貰ったものだから、消費しきれないものをもらってかえろうと、横尾はとりあえず大量にある牛乳を袋に入れる。
「レトルトいっぱいあるから、しばらくはそれで過ごそうかなと。生物は好きなだけもってってくれ。あと、冷凍にも入ってるから忘れずにもってってほしい」
言われて開けた冷凍庫には魚と肉が。
「肉もいいんですか」
「どうぞ。魚も忘れずにね」
横尾は美味しそうな牛肉と固まりの鶏肉に、気分があがった。鼻歌でも歌いだしたい気分だ。
「レトルトはちょっと過ぎても大丈夫だろう。今日は一緒に肉食おうぜ」
横尾は袋に生ものや大量にかぶってる食材なんかを入れて、部屋に戻った。貰ったものを冷蔵庫にしまう。
ここの、学校のスーパーは長期休暇は閉まってしまう。それでも生鮮食品などは売店がその期間のみ拡大して売ってくれるけど、品ぞろえも悪いし、かなり高くなる。ここでただの食材はありがたかった。冷蔵庫から今日自分で食べようと思っていた食材をとりだした。袋にいれて横尾は東の部屋に戻る。
「今日の、献立は牛肉とネギと焼き豆腐のすき焼き風、野菜と青魚の和えたやつ、冷や汁と、山芋に醤油かけたやつです」
「うまそー。なんか和食とか久しぶりに食べるわ」
「俺自分で作ると和食だから見飽きてるけどな」
東が勉強してる横で夕飯を作った。家でなんか野菜の使いさしが大量にあったので和え物と冷や汁にぶっこんだ。一人だと野菜の使いさしが増えてしょうがない。さっきみたレトルトは野菜が足りなかったようだから、多目に作った和え物と冷や汁は東に一緒に消化していただこう。
食べる直前に焼いたからすき焼きがまだ暖かい。この肉の油が溶けたタレにネギを浸して米に乗っけて食べるのが最高にうまい。
「横尾、料理うまいよな」
「全部簡単なのだけど。あんまり凝ったのはめんどいからあんまりつくらねえ」
「十分だろ。いつも弁当もうまそうだし」
「そうか?」
「普通の男子高校生は魚をこの状態に切れないし。俺、レパートリー少なくて、炒飯、カレー、野菜炒めの繰り返しなんだよね。ちょうど夏休みだし、よければ、なんか教えてよ。横尾、家帰らないんだよね?」
「家には帰らないけど、二泊だけ、ばぁちゃんの墓まいりに、いとこの家に泊りに行く」
「墓参りとかえらい」
「おれ、ばあちゃん子だったから」
母に女将をゆずってから、家のことをするのは全部おばあちゃんだった。そのおばあちゃんも、横尾が中学生の時に亡くなったが、お墓参りにいくのは、横尾の仕事だった。
「さっそく、明日から、なんか作るか? でも、俺も和食に片寄ってるしな……。簡単に作るならパスタとか中華じゃね? 俺もレパートリー増やしたいし、洋食とかつくりたい」
「あ、明日はむりだ。そうそう、横尾にも話そうと思ってたんだけど、なんか、明日交流会があるらしいよ」
「交流会?」
「うん。夏休みとか、残る寮生ってだいたい決まってるだろ? でも誰がのこってるとかってあんま知らないし、出不精の寮生のために、居残り組の寮生で集まって交流しようぜって会なんだって。なんか毎年夏にあるらしいよ」
「へぇー。初めて聞いた」
「特に回覧はなくて口伝えなんだって。交流会目当てで残るやつがいたら困るみたいな? 人気な生徒も割と来るとか? 俺、誘われたから行こうかなと思ってるけど、横尾も行く? 一年はタダで、夕食でるらしいよ」
良くわからないけど、なんせ残る寮生は暇で出不精なやつが多いから、そういうイベントがあってもいいのかもしれない。
長い期間は帰らない美藤のことが少し頭をかすったが、彼はこんなイベントには顔をださないはずだ。
「暇だし、行こうかな?」
横尾はそう返事した。
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