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交流会は、朝市の大きな食堂でおこなわれた。居残り組の寮生なんてあんまりいないのではと思われたが、満杯とはいかなくてもそこそこ盛況みたいだ。金持ちの学校だから、なんらかの集まりは、みんなそこそこちゃんとしていることが多いが、今日は私服でラフな格好が多かった。同級生と上級生の違いがわからない。
最初こそ東と一緒にいた横尾だったが、東が成績優秀者だと知れてから、勉強会のお誘いが多くなったので、そっと別れた。今までは二組の委員長だった東は、居残り寮生組の委員長になるのかもしれない。
横尾は一人で食事を食べていた。立食だけど、脇に椅子があるので、皿にとって、会場の風景を眺めながら、肉団子をつまむ。食事は食堂に頼んだものなのでとてもおいしい。
男ばかりの会場だけど、そこかしこで、談笑ははずむ。男子校で、居残りの出不精な男たちにとって、ここは出会いの場なのかもしれないと、今更ながら、横尾は気づいた。
まさに、目の先でスポーツマンタイプの男が、大きな目の草食系男子の腰に手を回そうとしている。
「こんばんは」
横から、声がかかった。自分にもお誘いが? と思ったら、見たことある顔だった。
「こんばんは」
「久しぶり、偶然だね」
隣の椅子に座った男は、この前の球技大会で一緒にサッカーをした男だった。
「居残り組だったんだね」
「はい。先輩こそ」
「先輩っていったっけ?」
「雰囲気でわかりますよ。ずっと敬語だったでしょ」
それもそうだねと、男は笑った。
「名前、言ってなかったよね。俺は三年の藤原、これも何かの縁だ。よろしく」
藤原はウインクをして、手を差し出した。ちゃらい。
「一年の横尾です」
横尾も手を差し出して、握手した。
「さっそくだけど、横尾くんは、もしかして、この交流会の真の意図に気づいた口かな?」
藤原が多分に含みをもってそう言った。
「そうですね」
「もしかして、相手をお探し?」
「探してないですよ」
「そっかー。残念」
そんなに残念でなさそうに藤原は言った。
「もしかして、口説こうと思ってましたか」
「んーー。俺はそういう目的できてないけど、横尾君がすごい猛烈な狼だったら乗ったかな的な?」
「なんすかそれ」
「どっちでもいいけど、めんどくさいけど、流されやすいかんじ」
「わからなくもないっすけど」
藤原はとてもちゃらく、だらしない感じがするけど、話してみたら面白かった。そういえばこんな人だったなと思い出してくる。
「でも横尾君が、そういう目的じゃなくてよかったかも。いやさ、そういう相手もほしいけど、実際は友達を作るほうが、先決だよね」
「藤原さん友達いないんでしたっけ。そんな感じ全然しないのに」
今回、話して見ても、ちょっと癖はあるけど話しやすく愛想もよい。友達がいないって言うのが横尾は不思議だった。
「でも、できないんだねーー。いや、一人いるにはいるんだけど、そいつはこういう場所には来ない奴で。粘って送ってもらってけど、すぐに帰った。だから俺、いつもひとりなんだわ」
そう言えば藤原は前もそんなことを言っていた。
「寂しいですね」
「そうそう。でも、まぁ、一人でも、頑張ってはみるけど、なんかいまいちピンと来なくて。でも横尾君はいいかんじ」
「それは友達になってください、的なことですか?」
「そう! 友達になってください!」
まるで交際を申し込むかのように、藤原は頭を下げた。
「よろこんで」
横尾は笑って受け入れた。
そのあとも、二人はそこで会場の雰囲気や互いの趣味なんかを談笑した。
「横尾君は、ずっと寮にいるの?」
「盆に三日だけ帰りますけど、ほかはいますよ」
「じゃあ、今度また、遊ぼうね」
「はい、また」
藤原はバチっとウインクをして去って行った。ウインクが好きなのかもしれない。
すでに会場に人はすごく少なくなっていた。去って行った何割が同じ部屋に帰ったのだろうか。それはともかく、横尾は本来の交流会の役目をはたして、寮に帰った。
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