41 / 53
帰省
お盆の最中、横尾は地元に帰ってきていた。横尾の地元は田舎の温泉街でこの季節はそこそこ栄えている。よって、自分の親がやっている旅館はそれはそれは大忙しだった。家族は、墓参りを祖母の命日には行くが、お盆に行くことはない。お盆にこっそりと墓参りに行くのは横尾の仕事だった。
地元の温泉街や観光地から少し離れた田舎にあるいとこの家にお邪魔する。
「こんにちは」
「こんにちは仁志ちゃん」
家の奥からおばさんが出てきた。おじさんは普通のサラリーマンだけどお盆休みは少しずれて今の時期は働いていると言っていた。
小さい頃はいとこと年が近いので、たまに遊びに来ていた。家が忙しくて預けられることもあったが、最近はとんとこなくなっていた。おばさんにあうのは久しぶりだ。
「桂は、バイト?」
いとこの桂は、三つ上だ。今は大学生で、高校の時から、この時期は、横尾の旅館を手伝いにバイトに来ていた。
「そうそう。仁志ちゃんが帰って来ないから大変っていってたよ。まぁ、お爺ちゃんも頭、固いから」
「ほんとそう。親戚いっぱいいるんだし、誰でもつげるじゃん。桂だって頑張ってるんでしょ」
「桂は、料理はできて、愛想もいいけど、頭悪いからね。賢い嫁がもらえるかが問題ね。まぁ、ゆっくりしていきなさい」
伯母さんはパートに行くと出て行った。夕方まで帰らないそうだ。
今日は、泊めてくれるお礼に料理を作ると言っていた。食材を買いに行って夕食を作る以外の予定はない。明日は朝から、家をでて、墓参りに行って、地元をふらふらしようと予定を立てる。三日目の朝にはここを出て寮に戻るつもりだった。
横尾は墓参りにきただけなので他に用事はない。
それでも、普通帰省したら、地元の友達にでも会いに行くのだろうか。
地元にわざわざ会いに行くような友達はいない。友人関係はちゃんとあったけど、浅く広くだった。横尾とって友達と呼べるのは美藤ひとりで、いまその関係が友達と呼べるものかはわからない。
その美藤も横尾がかってに、おかしなことをいって突き放した。GWから連絡は何一つない。
もう探してないかもしれない。美藤は横尾のことなんてどうでもよくなったかもしれない。別れるぐらいなら、ずっと、あいまいな関係を続けていくこともできたかも知れないが、それではゆるく腐っていくような気がした。
「会いたいんだけどな」
美藤はいま、何をしているのだろうか。
夕飯は腕によりをかけた懐石料理だった。魚介類は海の近くの市場まで買いにいった。寮では簡単なものしか作らないので、ここまで時間をかけて料理するのは久しぶりだ。桂は向こうに泊まり込みなので、伯父と伯母との三人での食事だった。伯父は無口な人だけど、伯母がおしゃべりなので、楽しく食事した。
部屋は桂の部屋を借りた。寝ころんで携帯を見る。前に電話したのはGWだった。美藤は前島さんのところに帰っていた。夏休みも帰ってくるのだろうか。美藤は今、何をしているのだろうか。
携帯をもったままごろごろと、横尾は人のベッドの上でくつろいだ。
もしかしたら夏休みのどこかで前島に顔を見せに帰ってくるかもしれないが、それがどの時期かはわからない。
俺のわがままで手ひどく別れたのだから、自分から連絡をとれるわけもない。会いたいけど、会いたいと言うのは勝手だ。でも会いたいのだから仕方がない。賭けにでるのもいいかもしれない。
きっと殴られるなと横尾は思った。
朝起きて、さっそく出かけた。服はあんまりもってきてなかったので、桂のを拝借する。横尾は美しいものきれいなものが好きだが、自分がそうなる必要はないので、ダサくなければ、そこまでこだわりはなかった。
家を出て電車に乗って、お墓に行った。きれいに洗って花を添えて、祖母が好きだった果物をおく。
横尾の家族は基本的にみんな優しいが忙しい人が多かった。そんな家で幼いころにおもに横尾の面倒をみていたのは祖母で、横尾は祖母が大好きだった。それに、美藤と仲がいいことに唯一口をはさまなかったのも祖母だけだ。
「自分の好きなようにすればいい、か」
祖母は横尾が何をするのも肯定的な人だった。
「お祖父ちゃんを裏切って、ごめんね、おばあちゃん。でも俺好きなように生きるよ」
横尾は墓にそう言って、最後に線香をもう一度あげた。
ともだちにシェアしよう!