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幕間 1

 始業式がおわって、みんなもだもだと帰りだす頃、後ろの席の依田から話しかけられた。一学期は席替えがなくずっと同じ席だったので、そのまま横尾と依田は前後のままだ。 「夏休みなにしてたー」  依田は昨日の夜帰って来たようで、横尾が合うのはほとんど一学期ぶりだ。依田は見事に焼けていた。 「うっぜぇ、お前のメールほんとうざかったんだけど」 「ひっでえ、というか、ヨコ完無視したでしょ! みなみと、東は返事くれたよ」 「その二人もいやいやだから」  依田は休暇中、日焼けから見た通りよく遊んだらしく写真を撮っては送っていた。 「僕は、依田の写真楽しみにしてたよ?」  話しかけてきた新見は先週頃から帰ってきていた。 「みなみ、嘘つかなくてもいいからな」  今日は依田のお土産がたくさんあるということで、この後、昼飯を横尾が作ることになっていた。それぞれ再開のあいさつをして別れる。  すぐに着替えて支度をした横尾は東の部屋に向かった。東と横尾は社交性が高いので、誰とでも話せるが、新見はハンデが依田は新聞部で本人も若干の人間不信ということで集まるときはいつも決まったメンバーだ。夏休みは東の部屋に特に後半は、多くの同級生が出入りしたので、東と料理の特訓をしていた横尾もその同級生達とは仲良くなった。それでも、いつものメンバーが一番落ち着くといえる。  東の部屋には依田と新見が座っていた。東は奨学生の申請の話でまだ戻ってきていない。カギは新見が借りていたようだ。  依田がお土産のお披露目をした。いろんな地域のお土産があっていろんな地域に旅行したようだ。さっそく料理をしてると、東が帰ってきた。  三人は依田のお土産話を聞いてもりあがっている。依田の話はおもしろく、横尾も片耳で聞いていた。  食事はいろんなものができた。お土産は沖縄のブタから岩手のねぎに秋田の調味料、デザートには北海道のチーズのお菓子もある。 「いろんなとこ行ったんだな」  夏休みの間に、勉強会を開くために東の部屋には誰かが買ったでかいローテーブルが置かれた。その上に明らかに作りすぎた料理がテーブルに並んでる。残ったらみんなに持って帰ってもらおう。 「今年は、東北が主だったね。一瞬沖縄にも行ったけど」 「依田のお父さんの仕事だっけ?」 「ほとんど趣味だけど。売れない旅行ライターなんだよ。普段は株やってて、そっちでもうける感じ」 「じゃぁ、今までいっぱい旅行、行ったんじゃない?」 「腐るほど行ったね」  横尾が席に着いたのでみんなで手を合わせて出来立てのご飯を食べた。 「横尾、実家、温泉旅館なんでしょ。依田もしかしたら行ったことあるんじゃないの?」  一口食べた魚の団子はおいしかった。未知だった調味料をなかなかうまく使えて横尾は満足する。 「ヨコ、中学、菊野でしょ。あのへんなら俺、何度か行ったよ」 「じゃあ、あるんじゃない?」 「でも、横尾って経営者はいなかったんだよね」 「えっ? 調べたの?」 黙々とスペアリブを食っていた新見が顔をあげた。 「うん。新聞部は徹底的に調べるよ。特に外部生は。でもどこかはわからなかったんだよね」 依田はその時を思い出してるのか唸っている。 「それは、友達できないはずだよね」 「ちょっと気持ち悪いわ」 東と新見があきらかに引いた。  依田はそれに焦ってかわいそうなぐらいしゅんとなっている。 「そうだよな、きもちわるいよな。ストーカーみたいじゃん、俺」 「ごめん、気持ち悪いのは本当だけど、別にだからって、依田を責めてないし、嫌ってもないよ」 依田が真剣に落ち込んでじめじめした空気をだしたので東がそれをなだめた。追って新見も依田を励ましている。 「たぶん名前だしてる経営でオーナーがじじぃで、近藤だったっけ。母親も仕事場では、まだ近藤名乗ってて、父親が横尾なんだけど、もう父親は料理長降りて半オーナーみたいになって名前は出してないはず。だからわからなかったんだと思う」 横尾は依田の謎に答えた。 「横尾優しいね」 新見がなぜか、そう言ったが、そもそも横尾は別に隠してない。 「ありがとう、みんな。あと、答えてくれるなら、おって来たイケメンの詳細もお願いします」 「お前のそういうところが駄目なんだ」 調子にのった依田に横尾は頭に張り手を入れた。 「もう二学期だよ! 教えてくれてもよくね!」 「俺も教えたいのはやまやまだし、自慢したいけど、隠れてる以上は隠し通さないといけないんだよ」  もうそろそろみつけてほしいのは横尾も一緒である。彼も情緒的に成長しているのだからもう少しのはずだ。

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