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「それなら、ヨコと、東は休み中、何してたの?」
もうみんなおしゃべりモードの中、ながながと食べていた新見がようやく箸を置いた。おかげで、皿の中はなかなかの減りを見せた。さすが全員男子高校生である。
「俺らは、なにも。勉強したり、ヨコに料理教えてもらったり」
「東の部屋には勉強を聞きに来るやつが毎日のように来てたな」
「楽しかったけど、みんな勉強できるようになったら、俺奨学生じゃなくなっちゃうから、普通にこまるけどな」
それでも、東が笑ってられるのは、彼が本当は余裕だからだろう。
「じゃあ、結構、二人でよく合ってたんだね。なんか仲良くなってるし」
「東はともかく、俺は寮の残り組ともだいぶ打ち解けたな。なんか交流会とかあったし」
「交流会?」
新見が言葉を聞き直した。
「寮の交流会は秘密につつまれてるんだ」
依田が横から答えた。
「そう言いながら新聞部のお前が知ってるじゃん」
「まぁ、あることぐらいわね。新聞部にもおきてというものがありまして、基本、寮のことはNGなんだよね。新聞部は取材で知ってること多いけど寮のことは記事にできないし、広めるのも禁止されてる。寮は個人保護法に厳しいから、各部屋にネームプレートもないでしょ。週刊天白はたまに破って折檻部屋入れられてるけど、怖いらしいよ」
依田の話にへぇーと、みんな関心をした。
確かに寮にはナンバープレートはあるがネームプレートはない。今まで見た新聞もだいたいの写真は校内のもので、寮のものはなかった。寮の部屋割りもここの学校は変な割り方でそれもおおもとは個人情報流出を防ぐためだ。それの被害者が新見だけど、その話はまた、別のお話である。
思い返してみれば、交流会も直前まで知らなかったし、厳重には言われなかったが秘密だと聞いた気がする。
「知らなかった」
「いろんな立場の子供がいるから、やばい情報は寮の中だけにしとけっていう学校からの暗黙の指示だね。だからまぁ、新聞部のネタにはならないけど、それはそれとして、どんな感じだったの?」
またしても、依田のやじうま根性が爆発したが、今回は新見も興味があるようで、東と横尾を見た。
「これと言ってなにもないけど、朝市の食堂で立食のパーティーみたいな? 東は人気だったよ」
「そうでもないよ。でもこれまで、なかなか話したことのなかった他のクラスの人とも良く話せたね」
東の部屋に来る人数が後半増えたのはこのせいもあるだろう。東はひとたらしの素質がある。
「なんか、友達の他にも、そういう相手を探す目的のもいるって話もきいたけど」
「あぁ、そういう人もいた」
実際横尾はそういうカップルを見た。あのカップルは今でも仲良くしているのだろうか。それとも一晩限りの夢だったんだろうか。
「そういえば、ヨコ、なんかずっと話してる人いなかった? 先輩っぽいかんじの」
「あぁ、藤原さん」
あの日、仲良くなった藤原とは話が弾んで連絡先も交換した。あれからしばらくたったが、たまにメッセージを交換している。
「まさか、そういう相手!? ヨコには心に決めた人がいるのに! ふけつ!」
勝手にもりあがる依田に横尾はびんたを入れた。
「俺は本当の意味の交流会の楽しみ方をしましたー。なんか、球技大会でちょっと知り合った人なんだけど、また偶然会って、仲良くなったんだよ」
「前に言ってた人?」
「そうそう。やっぱりしゃべり上手で明るくておもしろくて、いい人だった。でも友達いないっていってるし、すげえ不思議」
友達百人います!電話帳はうまってます!ってタイプなのに、それが本当に不思議で、どこかによっぽどの欠陥があるのかなと思ったけど、横尾は今のところ見つけられていない。そんなものないとも思っている。だから余計に不思議だった。
「藤原って名前の先輩で、友達いないけど明るくて面白い人って、それたぶん、七組の藤原先輩じゃないかな?」
横尾は依田の七組という言葉にどきりとした。それは、美藤が在籍している、特殊なクラスだ。
「二年七組の藤原先輩って超天才なんだよ。だからみんな近づきがたいというか、七組はあんまり学校来ないし」
「七組の人は七組の人同士で交流ないの?」
「ゼミが近いとかじゃないかぎりは、たぶん。藤原先輩は一年から七組だから余計に。まだ、途中で転コースなら多少は友達できるんだろうけど」
「高校生なのに、友達いないってさみいしいね」
「藤原先輩は明るいからまだ馴染めてる方だと思うけど。友達っていうほどは仲良くなれないのかもね。でも藤原先輩は今年から、ゼミが近い美藤先輩っていう人とわりかし一緒にいるから仲いいんだと思う。美藤先輩っていうのは二年できつい系のイケメンで、近寄りがたいけど人気なんだ。二年から転コースだけど、一匹狼だったから、藤原先輩より友達いなさそう。……って、こんな話、前にもしなかったっけ」
こういう自分が情報を持っている時は依田は噛まずにすらすらしゃべる。
新見が少しだけ考えた。
「あの、大学行ったときじゃない?」
「あっ、そうそう、前にでかけたとき、遠目に見た七組の人が、藤原先輩はと美藤先輩だ」
あの時は遠目で顔はみえなかったし、美藤とつながりがあるなんて、気が付かなかった。でもそういう人物がいた事はよく覚えている。美藤の姿と同時に友達で来たんだと思った。
「俺のほかにも友達いたならよかったわ」
横尾は平然を装ってなんとか返事した。
いま、自分の顔をちゃんと作れてるだろうか。急に美藤の名前がでてびっくりした。
自分が思っていたシナリオではないが、じきに自分は見つかるだろうと、横尾は思った。
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