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告白

 美藤は横尾の手をひっぱって歩いた。チャイムはなったというのに、廊下の生徒達はひっこまず、窓からの見物客もすごい。明日から噂の人だなと横尾は確信する。  さすがに追ってくる人はいなかったので、学校を出てくるときにはふたりになっていた。 「ゆきちゃん、どこいくの?」  美藤は安定の無視である。学校をでて歩いて行ける場所は寮か朝市しかない。  考えてるまに間に寮に入った。管理人には美藤が体調悪いとぶっきらぼうにつげた。絶対わけありなのに、不干渉なここの管理人は基本的にザルだ。  美藤の後ろをずっとついて歩く。美藤はふりかえって横尾を一度だって見ないけれど、手は強くにぎられたままだ。七組の専用階まで上った。奥の方の部屋に連れられて、部屋に入れられたところで、ようやく手がはなされた。つったったままの美藤をよそに横尾は部屋を見渡した。  間取りは他の部屋と変わらない。でもベッドと机がひとつずつだから、広く感じる。 「ゆきちゃん、一人部屋?」 「七組はみんなそうだ」  横尾はベッドの上にすわった。  美藤は立ちっぱなしで、座った横尾を呆然と見ている。 「なんかゆきちゃんが、制服来てるの、新鮮だな」 「……」 無言の美藤に横尾はなにもうながさない。 部屋を眺める。机の上は雑にものが積まれてる。ジャージが床に脱ぎ捨てられていた。でも汚すぎることもない。 「お前は見つかったから、俺の勝ちだ」 しばらくたって美藤はそう、静かにいった。 美藤に向き直る。美藤はゆかを睨んでいた。 「でも、ゆきちゃん、ずるしただろ。藤原さんに俺のこと聞いたんでしょ。そんなん無効だわ」  意地悪な言いかただと、横尾は思った。別にずるしたなんて怒ってない。そもそも、偶然に知ってしまったのだから、美藤に落ち度はない。ただ、自分はあんなにも隠したのにと若干のくやしさはあった。 「それでも、俺に運が味方したから、お前は俺のそばをはなれない」 「まぁ、そうだね。約束は約束だし」  美藤がゆっくりと、横尾を押し倒した。横尾はされるがままだ。  ベッドの上で、横尾は美藤の下敷きになる。 「すんの?」  久しぶりだなと、思った。去年の後半には美藤はだいぶ落ち着いついたし、帰ってきても彼には部屋がなかったのでこういう行為はできなかった。  美藤の顔が横尾の顔に近づく。目があうことはなく、美藤の顔は横尾の耳元に落ちた。 「……ごめん」 小さく美藤は謝罪を述べた。  横尾の顔のそばに顔を落したまま美藤は動けずにいた。今までなら美藤がなんのアクションを起こさなくても、横尾は勝手に自分のしてほしいように動いていた。しばらくなにも反応のない横尾に美藤はあまり持っていない羞恥心がわくのを感じて、やつあたりするようにそのまま耳を噛んだ。 「痛い、」 横尾が声を上げた。 「えっ、なに、びっくりした。なんで謝んの?」  横尾は美藤の上体を手で押した。重いが美藤は反抗しないので、そのままふたりは上体を起こして向き合った。 「びっくりするんだけど。ゆきちゃん、あやまるとかできたんだな? えっ、なんか俺にしたの?」  横尾は美藤がなぜかしょんぼりと謝罪をするというまさに明日は雷、いや竜が現れてもおかしくないような状況にパニックになった。 「なに、って、今までいろいろ」  罰がわるそうに、美藤は顔を下げる。  横尾はあまりにも感激しているし、なににあやまっているのかわかっていないしで、いろいろバツが悪い。 「あぁ。そら、ゆきちゃんは俺に謝るべきだわ。いろいろさ。そもそも、押し倒すとかも本来したらダメだから。ゆきちゃん自分がイケメンだから許されると思ってるけど」 「思ってねーよ」 うつむく美藤の頭を横尾は撫でた。 「えらいな。ゆきちゃん、成長したな。やっぱかわいい子には旅をさせないといけなかったんだな」 横尾はしみじみとそう言った。 「お前は、なんで、そう」 そこで美藤は言葉を切る。 「俺は捨てられたと思ったんだ。できもしないことを、お前は言って、もがけっていう、復讐だって。なのに、こんなとこにいたなんて、なにがしたかったんだよお前」 「わからない?」 横尾は美藤に手を伸ばした。美藤の広い背中に手をのばす。 「ねえ、ゆきちゃんさ。俺に捨てられて寂しかった? ゆきちゃんは俺のことどう思ってんの」 横尾は美藤をみて笑った。それは天使のようで悪魔のようである。 「……わからない。でも、捨てられたくないし、手に入れたいとも思った」 「うん、」 「好きだと思う」 それは、横尾に向けられたものではなく、美藤が自分に確認を取ったといえる言い方だった。 「うん」  横尾は美藤の胸に自分の額を合わせる。 「うれしい。すげぇ、うれしい」  美藤の心臓の音が頭にひびく。美藤が自分に好意を持ってるのはわかっていた。でも美藤本人にその自覚があるようには見えなかった。  やっと本人からもらえた言葉が心臓の音とともに胸に染みる。 「お前は、なんで、今まで、俺の横にいた。どうしてここにいる」 「そんなの好きだからに決まってるじゃんか。好きでもなきゃ、お前のそばにいるなんて、無理だよ」  美藤は横尾の顔ををまじまじと見た。ずっと一緒にいたのに、見たことないような、気の抜けた顔だった。 横尾は美藤のすこしのびた前髪を触る。黒染めで不自然に真っ黒な髪も美藤にはよく似合っている。 「ゆきちゃんを、俺はからかってないよ。ゆきちゃんが、好きだから、離れたくないから、すぐ見つけて貰えるように、ここに来たんだから」 本当は自力で自分からの好意に気付いてほしかったのだけど。こんな運だけで、見つかってしまって不本意極まりない。でもそれはそれで運命のようでロマンチックかもなんて頭がわくくらいには、美藤の思いがけない告白に横尾は浮ついてしまってる。  横尾はとびっきりに甘い顔で美藤に言った。 「好きだよ、ゆきちゃん。おれは、美藤由樹という人間がこの上なく好きだ」  横尾の告白に 美藤は信じられないものを見るような顔をしている。美藤は自分が好かれるような人間だと一ミリも思ったことがないのだろう。  思えば、相思相愛のはずなのに、ずいぶんとめんどくさいことをしている。それもひとえに美藤のコミュ力の低さが原因だ。  横尾はため息のような笑いをこぼして、眼の前で固まる美藤の手を取った。  美藤かびくりと、肩を動かしす。 「なんだ、」 「つまり、両思いだから、これからずっと一緒で、仲直りのしるしに、エロいことしようぜってことだよ」 横尾は不適に、笑って美藤の唇にかじりついた。

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