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第7話
「じゃあ、後は頼んだよ」
時計の針は13時を少し過ぎたところ。
俺はさっきの一件でざわついた気持ちをごまかすために、黙々と掃除機をかけていた。
「あ、はい」
急いで手を止めて、仕事に行く麻斗 さんを玄関まで見送りに。
2人きりになると麻斗さんは申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんね、首のとこ…柊吾 だよね」
麻斗さんが言ってるのはさっきアイツにつけられたキスマークの事。
見られるのが恥ずかしくて、絆創膏を貼っていたのに、バレバレだった。
「えっと…あの、その…///」
「酷い事をしてごめんね。柊吾にはキツく言っておいたから」
優しく俺の頭を撫でた麻斗さんは、俺の頰に行ってきますのキスをした。
今まで恋人でもない人に気軽にキスされる生活なんてしてこなかったのに、麻斗さんがあまりにスマートに触れてくるから、流れで受け入れてしまった。
麻斗さんの優しさが胸に染みた。
柔らかな唇の感触にドキドキして頰を染めていると、可愛いと言われて反対側の頰にもキスをされた。
可愛いって言われる事に慣れてない俺はただただ恥ずかしかった。
「行ってらっしゃい…です///」
「ありがとう。行ってきます」
麻斗さんは優しく微笑んで出かけて行った。
ベランダから麻斗さんの乗る赤いスポーツカーが見えなくなるまで見送った。
オシャレなスポーツカーは麻斗さんの魅力を倍増させるアイテムの一つ。
あんなに美しくて優しい人が世の中に存在している事が不思議だった。
まだサラッと聞いただけだけど、麻斗さんは街でバーを経営しているらしい。
夜はお店に出るからあまり家にいないそう。
お兄さんの秀臣 さんは紳士服のデザイナー。
基本的には在宅で仕事をしてるそう。
でも、今夜は打ち合わせを兼ねた食事会に出かけてしまうらしい。
最悪なパターン。
性悪三男坊といきなり2人きり。
いくら麻斗さんが注意してくれたと言っても安心なんてできない。
一つ屋根の下にいるから知らん顔なんてできないし、絶対に気まずい。
俺は軽くため息をついた。
でも、だめだ。
エアコンと冷蔵庫のためにここへ来たんだ。
ここをクビになったら、また住み込み&高給な仕事を探す羽目になる。
ここより条件のいいところが見つかる保証もない。
しっかりしなくちゃ…!
俺は自分を奮い立たせて、食材の買い出しに出かけた。
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