8 / 420
第8話
「行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいです」
夕方になったから、今度は秀臣 さんのお見送り。
仕事だから仕方ないけど、本当は家にいて欲しい。
心の中ではずっと今日の食事会がキャンセルになる事を願っていた。
「柊吾 の事を聞いた。悪かった」
秀臣さんも俺を気づかってくれた。
悪いのは全部アイツなのに。
「なるべく早く帰る」
「そんな…。無理しないでください。俺なら大丈夫です」
大丈夫じゃないけど、大丈夫なふりをした。
だって秀臣さんは仕事だから。
本来ならサポートする立場の家政夫の俺が邪魔する訳にはいかない。
「でも…そう言ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます」
俺の様子を見た秀臣さんは少し笑ったような気がした。
口数が少なくて、少し怖そうな雰囲気の秀臣さん。
打ち解けるには少し時間がかかるかも知れないけど、きっと彼も優しい人。
俺が『行ってらっしゃい』を告げると、秀臣さんの頬が赤くなった気がした。
もしかして照れてるのかな…?
ちょっと可愛いかも///
嬉しくなった俺はまたベランダへ。
駅まで歩いていく秀臣さんに手を振りながら広い背中を見送った。
はぁ…行ってしまった。
でも、大丈夫。
優しい2人がいてくれるから頑張れる。
いつかは2人も帰ってきてくれるから。
『行ってらっしゃい』を伝えたから、今度は『おかえりなさい』を伝えたい。
だから…頑張ろう。
ともだちにシェアしよう!