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第9話
「柊吾 、ご飯!!」
キッチンから大声で呼ぶと、自分の部屋から柊吾が出てきた。
「部屋まで呼びに来いよ。って言うか、なんで呼び捨てなんだよ」
柊吾は眉間にシワを寄せて明らかに不満そうだ。
「柊吾みたいに感じ悪い奴、呼び捨てで充分でしょ。二度と柊吾さんなんて呼ばないから」
俺はグラスに麦茶を注いで、机にドン!と置いた。
「冷めるから早く食べてよ」
「お前、もう食ったのか?」
手を洗って席についた柊吾が聞いた。
「まだ。柊吾の食事が済んだら食べる」
「じゃあお前の分も持って来いよ」
早くしろよ…と言うから渋々従う。
どうして俺がこんな奴と一緒にご飯を食べなくちゃいけないんだ…!
せっかく美味しそうにできた唐揚げの味が落ちちゃう。
心の中で悪態をつきながら、キッチンに置いてあった自分の分を持ってきて柊吾の正面に座った。
「へぇ、本当に唐揚げ作ったんだな」
からかうような口調にイラッとする。
「仕事だから」
そう、これは仕事。
そうでなかったら絶対唐揚げなんて作らないんだから。
不機嫌な俺なんておかまいなしの柊吾は
『いただきます』を言って唐揚げを口に運んだ。
「ん、美味いな」
柊吾はそう言ってニッと笑った。
そんな無邪気な顔で笑うんだ…。
昼間はあんなに嫌な奴だったのに。
「お前の唐揚げ最高だな」
柊吾の言葉を聞いた瞬間、涙が頬を伝った。
先日出て行った彼氏と柊吾の姿が重なって見えたから。
唐揚げが大好物の彼のために、よく作った。
彼はその度に喜んで食べてくれた。
『お前の唐揚げ最高だな』って嬉しそうに笑いながら…。
「また泣いてるのかよ」
「うるさい。放っといて」
捨てられた彼氏を思い出して泣いてるなんて知れたらまたバカにされるに違いない。
俺は席を立って洗面所に駆け込んだ。
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