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第11話
「は、離して…」
だんだん頭を撫でる柊吾 の優しい手つきが心地よくなってきて、強く拒めなくなった。
もう少し抱きしめていて欲しい。
もう少し頭を撫でていて欲しい。
「泣けよ。物わかりのいいふりしてても、気持ちがついてきてないんだろ。こうしててやるから泣けよ」
「……っ…」
柊吾の言葉で、胸の奥に押し込んでいた想いと涙がどんどん溢れてきた。
俺はまだ彼が好き。
ずっとこの幸せが続くと思っていた矢先に告げられた突然の別れ話。
関係は終わってしまったけど、彼を好きな気持ちだけが宙ぶらりんになってしまって上手く消化できない。
「毎日愛してるって言ってくれたの…」
「そうか…」
「全部嘘だったのかな…」
「どうだろうな」
「どうして授かる前に言ってくれなかったのかな…。自分の子供が欲しくなったから別れてって」
「さぁな」
「もし…もし、その人との間に子供が授からなかったら、彼は何食わぬ顔で俺との生活を続けたのかな…」
彼に聞きたかったけど、その事実を知るのが怖くて聞けなかった事。
もう過ぎた事だから忘れよう…そう思って、気にしないふりをしてた。
でも、ふとした瞬間にその疑問が頭をよぎる。
もしかしたら最初から愛されてなかったのかも知れない。
ただの『恋人ごっこ』だったのかも…。
あの笑顔も、あの温もりも、全部嘘だったのかな…。
そう思ったら、悲しくて苦しくて…。
それに、今までの彼を信じ切れずに彼を疑ってしまう自分も嫌でたまらなかった。
柊吾は相づちを打ちながら、ずっと俺の『どうして?』に耳を傾けてくれた。
俺は柊吾の腕の中で、わんわんと子供みたいに泣いた。
柊吾はそんな俺をずっと抱きしめて、背中を撫で続けてくれたんだ…。
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