13 / 420
第13話side.柊吾
〜side.柊吾 〜
何をやってるんだ、俺は…。
腕の中には泣き疲れて眠った環生 。
まつ毛はまだ涙で濡れていた。
新しい家政夫だと紹介された環生は、何の疑問も抱かずに女モノの白いフリフリエプロン(秀臣 の趣味だ)を身につけて俺の目の前に現れた。
どうせ秀臣や麻斗 の外見に魅かれて浮かれた金目当てのバカだと思った。
俺を見る時のちょっと怯えた様子が気に入らない。
こんな奴に家の中をウロウロされたら目障りだ。
今日中に追い出してやろうと思ってイタズラもしたし、意地悪も言った。
環生は俺より2つも歳上のくせに喜怒哀楽が激しかった。
初対面の俺に面と向かって怒ってきたし、平気で涙も見せた。
子供っぽいと思う反面、俺の言葉に反応してくるくる変わる感情や表情が新鮮だと思った。
この素直さと可愛げで男を虜にして、チヤホヤされて、何の苦労も知らずに生きているんだと思った。
でも、環生は予想以上に波瀾万丈な人生を送っていた。
本当はもっと泣きたいはずなのに、強がって涙を堪える姿に胸が締めつけられた。
何とかしてやりたくて、思わず環生を抱きしめてしまった。
環生は驚いた顔をしたけど、俺自身も自分のした事に驚いた。
話を聞けば聞くほど、腹が立った。
そいつの事情はわからない。
でも、環生に一途に想われているのをわかっていながら、酷い仕打ちをした事が許せなかった。
そんな奴を想って泣く必要なんてない。
早く目を覚まして、そんな奴の事なんて忘れればいいと思った。
環生にはもっとふさわしい恋人候補がいるはずだ。
そんな奴に縛られなくていい…。
話の流れを変えたくて、初めて環生の名前を呼んだ。
驚いた様子で俺を見る環生の表情が忘れられない。
上手い言葉が思いつかなくて、結局唐揚げを誉めただけだった。
華奢な体を震わせて泣きじゃくる環生を見るのは辛かった。
少しでも慰めになればと思って、頭や背中を撫で続けた。
ベッドに誘ったのは、このまま1人で寝かせたらまた泣くだろうと思ったから。
環生が求めるなら抱いて慰めるのもアリだと思った。
『セックスはしたくないけど優しくして欲しい』
それが環生の望みだった。
甘えたそうな顔をするから手を握って腕枕をしたら、また泣いた。
結局環生は俺の腕の中で泣きながら眠っていった。
スースーと規則的に聞こえる小さな寝息。
やっと眠った事にホッとした。
まつ毛の先の雫を指先で拭う。
「ん…」
ちょっと身動きした環生は、俺の胸のあたりに手を添えた。
幸せそうに笑ったように見えて、俺の心臓がドキッ!と音を立てた。
ちょっと、待て。
なんだ、今の『ドキッ!』は。
か、可愛いって思った訳じゃないぞ。
寝ながら笑うからビックリしただけだ。
別にコイツの事なんか…。
安心しきった柔らかな寝顔。
俺がどんな奴かもわからないのに、信じ切って眠りにつく環生。
そんなに無防備だから変な男に引っかかるんだ。
浮気されても気づけないんだ。
でも…それもコイツらしさなのかも知れない。
明日の朝一番に見るのは笑顔がいい。
昼間も無邪気に笑って、喜んで楽しく過ごしたらいい。
そう思った…。
ともだちにシェアしよう!