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第13話side.柊吾

〜side.柊吾(しゅうご)〜 何をやってるんだ、俺は…。 腕の中には泣き疲れて眠った環生(たまき)。 まつ毛はまだ涙で濡れていた。 新しい家政夫だと紹介された環生は、何の疑問も抱かずに女モノの白いフリフリエプロン(秀臣(ひでおみ)の趣味だ)を身につけて俺の目の前に現れた。 どうせ秀臣や麻斗(あさと)の外見に魅かれて浮かれた金目当てのバカだと思った。 俺を見る時のちょっと怯えた様子が気に入らない。 こんな奴に家の中をウロウロされたら目障りだ。 今日中に追い出してやろうと思ってイタズラもしたし、意地悪も言った。 環生は俺より2つも歳上のくせに喜怒哀楽が激しかった。 初対面の俺に面と向かって怒ってきたし、平気で涙も見せた。 子供っぽいと思う反面、俺の言葉に反応してくるくる変わる感情や表情が新鮮だと思った。 この素直さと可愛げで男を虜にして、チヤホヤされて、何の苦労も知らずに生きているんだと思った。 でも、環生は予想以上に波瀾万丈な人生を送っていた。 本当はもっと泣きたいはずなのに、強がって涙を堪える姿に胸が締めつけられた。 何とかしてやりたくて、思わず環生を抱きしめてしまった。 環生は驚いた顔をしたけど、俺自身も自分のした事に驚いた。 話を聞けば聞くほど、腹が立った。 そいつの事情はわからない。 でも、環生に一途に想われているのをわかっていながら、酷い仕打ちをした事が許せなかった。 そんな奴を想って泣く必要なんてない。 早く目を覚まして、そんな奴の事なんて忘れればいいと思った。 環生にはもっとふさわしい恋人候補がいるはずだ。 そんな奴に縛られなくていい…。 話の流れを変えたくて、初めて環生の名前を呼んだ。 驚いた様子で俺を見る環生の表情が忘れられない。 上手い言葉が思いつかなくて、結局唐揚げを誉めただけだった。 華奢な体を震わせて泣きじゃくる環生を見るのは辛かった。 少しでも慰めになればと思って、頭や背中を撫で続けた。 ベッドに誘ったのは、このまま1人で寝かせたらまた泣くだろうと思ったから。 環生が求めるなら抱いて慰めるのもアリだと思った。 『セックスはしたくないけど優しくして欲しい』 それが環生の望みだった。 甘えたそうな顔をするから手を握って腕枕をしたら、また泣いた。 結局環生は俺の腕の中で泣きながら眠っていった。 スースーと規則的に聞こえる小さな寝息。 やっと眠った事にホッとした。 まつ毛の先の雫を指先で拭う。 「ん…」 ちょっと身動きした環生は、俺の胸のあたりに手を添えた。 幸せそうに笑ったように見えて、俺の心臓がドキッ!と音を立てた。 ちょっと、待て。 なんだ、今の『ドキッ!』は。 か、可愛いって思った訳じゃないぞ。 寝ながら笑うからビックリしただけだ。 別にコイツの事なんか…。 安心しきった柔らかな寝顔。 俺がどんな奴かもわからないのに、信じ切って眠りにつく環生。 そんなに無防備だから変な男に引っかかるんだ。 浮気されても気づけないんだ。 でも…それもコイツらしさなのかも知れない。 明日の朝一番に見るのは笑顔がいい。 昼間も無邪気に笑って、喜んで楽しく過ごしたらいい。 そう思った…。

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