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第17話

「あぁ、生き返る」 麻斗(あさと)さんはご機嫌な様子で湯船に入っていた。 「ほら、環生(たまき)もおいで」 麻斗さんが俺を呼ぶ。 軽く背中を流すだけのつもりだったのに、麻斗さんは俺にも湯船に入るように言った。 一緒に入ろうって誘われたのは驚いたけど、大学時代によくサークル仲間と日帰り温泉に出かけていたから、お風呂場で脱ぐのには抵抗がなかった。 脱ぐ…くらいなら。 裸で一緒にお風呂に入る。 …その先に待っているのは、きっとエッチな事。 今からするのは…体のお世話。 俺は麻斗さんに抱かれるんだ…。 それにはまだ抵抗があった。 いつかこんな日が来るってわかってた。 わかってたけど…まだ心の準備ができてない。 「大丈夫だよ。セックスしようなんて言わないから」 緊張しながら湯船に入る俺に麻斗さんは優しく声をかけてくれた。 「え…?」 「俺ね、セックスに興味がないんだ」 麻斗さんは俺と一緒に湯船に浸かりながら少しずつ自分の事を話してくれた。 麻斗さんは昔から性的な事に淡白なタイプらしい。 セックスできない訳ではないけど、しなくても済むんだって。 性欲もあるけど、キスをしたり触れ合ったりするだけで満足してしまうそう。 興奮して勃起しても少し待てば落ち着くんだって。 「俺だって、人肌が恋しいし淋しいとも思う。でも気持ちと体が上手くリンクしないんだ」 そう呟く淋しそうな麻斗さん。 『愛情』と『セックス 』が結びつかないから、恋人とはセックスが原因のケンカが絶えず、誰ともなかなか続かないらしい。 知らなかった、そんな人もいるんだ…。 俺は好きな人とするセックスが好きだし、それが当たり前だと思ってたから驚いた。 もし、麻斗さんと俺が恋人で、そういう人だって知らなかったら、『どうして抱いてくれないのかな…。俺に魅力がないのかな、好きじゃないのかな…』って不安になってしまうかも。 例え知っていても、『セックスしたい。麻斗さんに抱かれたい』って思った時に拒まれたら悲しくなってしまうかも…。 きっと麻斗さんも恋人の気持ちに応じてあげられない自分を責めただろうし、申し訳ないって思って辛い思いをしたんだと思う。 去っていく恋人の背中をどれほど見送ったんだろう…。 そんな麻斗さんの気持ちを考えたら、胸がギュッと締めつけられた。 麻斗さんの淋しさを癒す方法を知りたいと思った。 「俺…麻斗さんのために何かしたいです。俺にできる事…ありますか?」 「ありがとう。環生は優しいね。とりあえず敬語はやめてくれると嬉しいな。後は…触れ合いながら体を洗って欲しいんだ」 麻斗さんはそう言いながら、俺の髪を撫でた。 体を洗うなら俺にでもできる。 麻斗さんの役に立てる事があって嬉しくなった。 「うん…わかった。俺に任せて」

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