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第28話
その日の夜の事。
今夜も柊吾 のベッドで眠る。
普段は家事疲れもあって爆睡してしまうけど、昼間に聞いた柊吾の過去が衝撃的すぎてなかなか寝つけなかった。
隣にいる柊吾はスヤスヤ眠っている。
穏やかな寝顔。
柊吾があんなに辛い目に遭っていたなんて…。
もっと早くに教えてくれていたら、もう少し優しくしてあげられたかも知れないのに。
柊吾の鼻をつっついてみたけど、何の反応もなかった。
もうちょっとだけ…。
今度は頰に触れてみたら、モゾモゾと動いたけど、まだ眠ったまま。
様子を伺いながら肩や左胸に触れてみた。
トクン、トクン…と、心臓の規則的な音がした。
柊吾が生きている事にホッとする。
今日はずいぶん思いつめた様子だったから。
具体的に何が辛いとは言わないけど、悲しそうな顔で俺を抱きしめる。
今日は『抱きつく』に近かったかも。
早く心の傷が癒えたらいいのに…。
そう思っていたら、眠っているはずの柊吾に抱きしめられた。
お、起きてたの…?
突然の事で固まっていると、口を塞ぐようなキスをされた。
「ちょ、柊吾…!」
慌てて胸を押し返して抵抗するけど、脚を絡められて、押さえつけられた。
手慣れた様子でパジャマの裾から手が入ってきて胸をまさぐられる。
この流れは非常にマズイ。
お、襲われる…!
怖い…、でもちょっと気持ちいい…。
「柊吾、やだ…!」
無理強いしてくる柊吾も、反応する自分の体も、流されそうになる自分も止めたくて暴れるけど、全然敵わない。
敵わないけど…このまま奪われるのは嫌だ!
ありったけの力を振り絞って柊吾を突き飛ばした。
慌てて廊下へ飛び出すと、物音を聞きつけた秀臣 さんが廊下に顔を出していた。
「助けて、秀臣さん…!」
急いで秀臣さんの胸に飛び込んで助けを求めた。
「どうした、環生 」
「柊吾が急に…」
秀臣さんは、半泣きの俺を自分の部屋に匿うと、柊吾の部屋へ様子を見に行った。
…怖かった。
体の震えが止まらない。
いきなりだったし、暗くて柊吾の表情はよくわからなかったけど、どうして俺にあんな事…。
『柊吾になら抱かれてもいい』そう思ったのは、柊吾とコミュニケーションが取れる時限定だったんだ…。
一方的に襲われるのは怖くてたまらなかった。
軽い気持ちで柊吾に触れた俺が悪いんだ…。
無断で体に触れたから、柊吾がお誘いだと勘違いしてしまったのかも。
それなのに力いっぱい突き飛ばしてしまった。
怒ってたらどうしよう。
ケガさせちゃってたらどうしよう…。
俺は後悔の気持ちでいっぱいになった。
少しすると秀臣さんが帰ってきた。
秀臣さんが部屋へ行くと、柊吾はぐっすり眠っていたそうだ。
俺の事を問いただそうと何度か起こしても目覚めなかったそう。
寝ぼけて、俺を組み敷いたの…?
俺の事を亡くした恋人と間違えたのかな…。
「ありがとうございます…秀臣さん」
「柊吾がすまなかった。…眠れそうか」
秀臣さんの問いかけに俺は首を横に振った。
ただのアクシデントだったけど、身に起きた事が衝撃的すぎて、まだ震えが止まらない。
元々眠くなかったけど、さらに目が冴えてしまった。
自分の部屋になっている和室は鍵がかけられない。
もし眠っている時に襲われたら…と思うと、怖かった。
「秀臣さん、今夜…ここに泊めてください。俺、床で寝ますから…。今日は鍵のある部屋で過ごしたいんです」
「わかった。環生はこのベッドを使うといい」
秀臣さんは布団を整えて、俺にベッドを譲ってくれた。
自分はソファーで眠るって言うから、一緒に寝て欲しいとお願いをした。
柊吾から守って欲しかった。
それに、背が高い秀臣さんはソファーから体がはみ出してしまうから…。
秀臣さんと並んでベッドに入りながら、柊吾の事を話した。
俺が毎日柊吾の部屋で眠っているから心配していてくれたらしい。
情緒不安定な柊吾が暴れたり、俺に酷い事を言ったりしないか、さり気なく様子を探ってくれていたそう。
秀臣さんは口下手だから柊吾に直接何かを言いはしないけど、こうやっていつも柊吾や俺を見守ってくれてるんだ…。
低めのゆっくりした話し声に心が落ち着いていく。
きっとα波とか出てるんだと思う。
秀臣さんの声を聞いているとすぐに眠くなってしまう。
「おやすみ、環生」
秀臣さんは俺のおでこにそっとキスをしてくれた。
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