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第31話
「…どうしてお前が泣くんだよ…」
戸惑うような呆れるような柊吾の声。
「だ、だって…」
「…ったく、しょうがない奴だな」
長い腕を腰に絡められてグイッと抱き寄せられた。
あっという間に柊吾の腕の中。
「泣くなよ…」
人差し指でそっと涙を拭われた。
初めての夜、そうしてくれたように…。
「お前、バカだな。俺のために…」
「…バカの柊吾に言われたくない」
膨れっ面をすると、柊吾は切ない顔をしながら、俺の頬を撫でた。
「…俺に関わって死んだらどうするんだよ」
そんな事ある訳ないのに、柊吾は本気でそう信じてるのかも知れない。
自分のせいで大切な恋人を亡くしたら、そんな気持ちになってしまうのかな…。
「いいよ。柊吾のせいで死ぬ事になったら、柊吾を呪い殺してあの世で一生俺のお世話係してもらうから」
俺はまだ死ぬつもりなんてない。
背が高くて優しくてカッコよくてセックスが上手くて俺にメロメロな結婚相手を見つけて、憧れの甘々イチャラブ新婚生活を送るって夢があるから。
でも、うっかりそんな事になったなら、その分を柊吾に償ってもらわないと。
呆気に取られた顔で俺を見ていた柊吾は、いきなりフッと笑った。
「お前…やっぱり変な奴だな。何だよ世話係って…。しかも麻斗の事も俺の事も何でも首突っ込んでお節介ばっかする暇人だ」
「うるさいな。その変な奴にお節介されて喜んでるくせに」
憎まれ口ばかり叩くから柊吾の両頬を思いっ切り引っ張ってやった。
「痛てっ、何すんだよ」
「柊吾が素直になるおまじない」
グイグイ引っ張ったら変な顔になった。
イケメンが台無し…と思ったら、可笑しくなって吹き出してしまった。
俺が笑っていると、愛おしそうに抱きしめられた。
恋人にするようなこめかみへのキス。
「柊吾…?」
「お前といると調子が狂う」
「えっ、そう?どうして?」
いくら何でも人の調子を狂わせるほど突飛な事はしてないはずだけど…。
「俺の事、全部受け止めるくらいの度胸や勢いがあるかと思ったら、急に泣き出すから放っておけない。でもやっぱり器が大きい気もするし…。お前みたいな奴初めてだ」
何、それ…。
誉めてるのか、けなしてるかどっちなの…。
俺が困り顔をすると、柊吾のおでこが俺のおでこに触れた。
ちょ、顔近いんですけど…///
ドキドキしてるのがバレてしまいそう…。
「お前、めちゃくちゃだけど…お前といると人間らしくいられる気がする」
誉められてる…って思っていい…のかな。
平凡な俺がそんな大それた事ができてるとは思ってないけど、柊吾の気休めになれてるならそれでいいと思った。
「なぁ、環生 …今日、一緒に寝てくれるか?」
ようやく聞けた柊吾の本心。
今まで、『〇〇しろよ』とか『〇〇するな』とか強い口調で命令するみたいに俺を振り回してたけど、今はちゃんと自分の気持ちを話してくれた。
それが嬉しくて、胸が温かくなった。
「うん、いいよ…」
俺はそっと柊吾を抱きしめた。
安心した柊吾は、手をつけなかったお昼ご飯と晩ご飯をペロリと平らげ、追加でおにぎりを3つ食べた後、シャワーを浴びに行った。
俺は柊吾が荒らした部屋の動線を確保して、布団を整える。
今日全部片付けるのは難しそう。
今夜は遅くなっちゃったから、明日やろう。
今日は2人で手を繋いで眠る。
仲直りの印。
それから、改めてよろしくね…って気持ちを込めて。
体温を共有すると、もっとお互いを理解できるような気がした。
恋人ではないけど、家族のような友達のような大切な人。
「おやすみ、柊吾」
「ん…おやすみ、環生」
俺は穏やかな気持ちで瞳を閉じた。
次の日の朝、また全員廊下で鉢合わせした俺たち。
秀臣さんは心配そうな顔をしていたけど、麻斗さんは全てを察したような顔で俺たちを見ていた。
その眼差しはとても温かくて柔らかかったんだ…。
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