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第3章 第2話

そんなこんなで今日は出社最終日。 必要な書類をもらうために総務課に顔を出したら、そこには同期の(さとる)がいた。 「環生(たまき)、久しぶり」 「悟、久しぶりだね。今日はどうしたの?」 「あぁ、出張でこっちを回ってるから顔を出したんだ」 悟は入社して1年間、一緒のオフィスで働いていた。 隣の部署だったから、顔を合わせる事も社員食堂でお昼を食べる事も多かった。 東京の本社に異動になってからはほとんど会えてなかったから、久しぶりの再会が嬉しかった。 「環生、会社辞めるんだって?」 「うん…、他にやりたい事が見つかったから…」 「そう…。今日の夜空いてる?そのあたりの話も聞きたいし、飲みに行こう」 悟は出会った頃と同じ爽やかな笑顔で笑った。 悟が予約してくれた個室のダイニングバー。 夜景が見えるよう、横並びのソファー席だった。 間接照明の柔らかな灯りと、さり気ないBGM。 非日常的なオシャレ空間。 オーダーもスムーズだし、店員さんへの接し方も、紳士的。 それに俺のエスコートも完璧。 背も高いし、甘い容姿や低めの声も申し分ない。 欠点なんてどこにも見当たらない。 相変わらずモテまくってるに違いない。 悟のオススメのカクテルで乾杯をして、さらっとお互いの近況報告をした。 俺の話を聞いた悟は心配そうな顔をした。 「環生が心配だよ。環生を性的な目で見る男たちと一つ屋根の下で暮らして、体も許して、その人たちの家事までしてるなんて」 確かに、客観的に見たら心配したくなるかも知れない。 俺も友達からそんな報告をされたら驚くと思う。 利用されてるだけじゃない?って言いたくなるかも。 「悟は俺が皆のオナホールになって、家事もやらされてると思ってるの?」 「聞いただけだとそんな印象かな。実際は違うの?」 「うん…ちょっと違うかな。どちらかと言うと、俺が家事の片手間に好きなタイプの生ディルドで楽しませてもらってる感じ?」 3人は俺に無理強いをしない。 セックスしたいアピールをしてきた人の中から、俺がしたい人を選ぶスタイル。 もちろん全員断ってもいいし、俺から誘ってもいい。 「…驚いた。いつからそんなに男を手玉に取って、選り取り見取り食べ放題をするようになったんだか」 「止めてよ、そんなんじゃないから…。ちゃんと愛のあるセックスだよ。その時は、その人が一番大切だと思って抱かれてるもん」 俺が膨れっ面をすると、悟はごめんごめんと笑った。 「そんな風に器用に切り替えれるの」 「うん…皆優しいし、それぞれ魅力的だから」 俺はもう少し詳しく3人の事を話した。 悟は運ばれてきた料理を取り分けながら、興味深そうに俺の話を聞いていた。 「彼らに大事にされてるから、雰囲気が変わって見えたんだね。前の控えめで儚い感じもよかったけど、今は自信に満ちあふれて輝いてる。前よりずっといいよ」 極上の微笑みを向けられて胸がドキン!と高鳴った。 自分だけでなく、秀臣さんたちの事も誉められて嬉しくなった。 「その中に恋人はいないの?」 「いないし選ぶつもりもないよ。皆同じくらい魅力的だから」 俺は取り分けてもらったシーフードのフリットを口に運ぶ。 エビの旨味がたまらない。 どうやって作ってるんだろ…。 俺もこんな風に美味しい料理を作って皆に食べさせてあげたい。 「それぞれ個性的な3人なのに同じなの?」 「うん、同率な感じ。もし、3人とバラバラに出逢ってたら一番最初に出逢った人と恋に落ちてたかも…ってくらい皆好き。でも、今はもう無理かな。皆素敵すぎて目移りしちゃって」 それぞれに素敵な3人を思い浮かべたらドキドキしてきた。 4Pをしたあの日の優しい3人を思い出したら、お腹の奥が疼いた気がした。 「…なんて、偉そうだね。まだ誰にも選ばれてないのにね」 「…環生はもう選ばれてるよ。あとは環生がその気になれば状況は変わると思うよ」 お世辞でもそう言ってもらえて嬉しかった。 ありがとう…笑うと、悟も笑った。 「でも、恋をするのはもう少し先かな…。頭で考えてるうちは恋できないと思う。恋って頭じゃなくて心とか感覚的な部分でするものでしょ?」 俺の言葉に耳を傾けながら、悟は柔らかく微笑んだ。 肯定も否定もしないまま、優雅な仕草でカクテルを飲んだ。 「ちょっとしゃべり過ぎたみたい。恥ずかしくなってきた///もう俺の話はおしまい。悟の話も聞かせて」 お酒も入ってるし、これ以上話したら、もっと恥ずかしい事まで話してしまいそう。 「俺が立候補しようかな」 「え…?」 向けられる悟の甘い眼差し。 色っぽい瞳に見つめられてドキドキした。 きっとこうやって皆を口説いてるんだろうな…。 こんなに素敵だったらモテるから、相手なんて選び放題だろうし。 悟の方が選り取り見取り食べ放題してるに違いない。 「環生、俺と恋しようか。今夜一緒に過ごそうよ」 「で、できないよ…。そんな事…///」 一瞬、悟と濃厚なキスをしながら抱き合う光景が浮かんでしまった俺は慌てて目をそらした。 ちょっと甘い言葉を囁かれただけでそんな想像をしてしまう自分が恥ずかしくなった。 でも心臓は破裂しそうなくらいドキドキしてるし、お尻がキュンと反応してしまった。 『セックスは愛し合ってる人とだけ』 ずっとそう思って生きてきた。 恋人以外とセックスするなんてありえない!って思ってた。 でも、秀臣さんたちと触れ合って開花してしまった俺。 恋人同士でなくてもセックスで気持ちが満たされる幸せを知った。 『お互いの同意と相手への思いやりがあればOK』 最近はそう思うようになっていた。 もちろん、お互い恋人とか大切な人がいないのが大前提だけど…。 「どうして?環生はもう俺の事好きじゃないの?」 「ど、どうしてそれ…///」 俺は顔が真っ赤になるのを感じた。 俺は悟に憧れてたから。 同期だけど、大学院卒だから2つ歳上。 賢くて、優しくてカッコよくて、カリスマ性があって、振る舞いにも無駄がないし言葉もキレイ。 仕事もよくできるし、自分の意見もきちんと口に出せる人。 悟は俺が持っていないものをたくさん持っていた。 俺は悟を尊敬していた。 そんな悟への憧れはいつしか恋心に変わっていった。 悟は当時付き合っている人がいたから、想いを伝える事はなかったけど。 「気づいてたよ、環生の気持ち。あの頃は応える事ができなかったけど…」 悟の指が俺の手に触れた。 「だめ…こんなとこで///」 「ここじゃなかったらいいの?」 「そういう訳じゃ…」 俺は必死にうつむいていた。 好きだった悟の瞳を見たら、もう逃げられないと思ったから。 「今は恋人もいない。環生を大事にするよ」 腰に手が触れて少しだけ抱き寄せられた。 「だ、だめだってば…///」 俺の反応を楽しむ悟の余裕が伝わってくる。 悟は本気じゃない。 一夜限りの遊びに決まってる。 でも…好きだった人。 絶対に手に入らないと思っていた憧れの人。 悟に愛されている恋人に嫉妬して、泣いた夜もあった。 体を持て余して、妄想の悟に抱かれた事もあった。 悟は明日本社に帰ってしまう。 俺も会社を辞めたから、自分から連絡を取らない限り接点もなくなるし、街で偶然会う事もない。 そんな悟が手を伸ばせば届く距離にいる。 当時ほどの熱量はないけど、成就しなかった想いがどんどん大きくなってくる。 ふと、柊吾(しゅうご)の顔が浮かんだ。 柊吾が知ったら何て言うだろう。 またバカだって怒られるかな…。 でも、俺は…。 「…環生を抱きたい」 いい…?と、耳元で響く甘くてちょっとかすれた悟の声。 俺は悟を拒む事ができなかった…。

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