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第3章 第18話
「続きをしよう」
また秀臣 さんのマッサージが始まった。
秀臣さんの気持ちがこもった丁寧なマッサージ。
だんだん血行がよくなってきて、足先がポカポカしてきたのがわかる。
「環生 、裾を上げてくれるか。ふくらはぎに触れたい」
「あ、うん…」
秀臣さんの手はオイルだらけ。
このままの手で触れたらネグリジェが汚れてしまう。
アロマオイルを使うってわかってたのに、どうしてロング丈にしたんだろう。
この前みたいなショートパンツタイプのパジャマだったら、汚す心配なかったのに。
もしかして…!?
裾を上げようとした俺は、秀臣さんの魂胆に気づいた。
脚に触れて欲しい俺が、自分からネグリジェの裾をまくり上げて秀臣さんを誘惑するみたいなシチュエーション。
きっと秀臣さんは俺にこれをさせるために、わざとロング丈のネグリジェを着せたんだ///
さり気なくエッチな事をさせようなんて、秀臣さんのむっつりスケベ!変態!!
そう思ったと同時に、そんな秀臣さんが可愛いとも思った。
それが秀臣さんの望みなら見せてもいいかな…と思った。
…と言うより、好奇心が勝って秀臣さんの反応が見たくなった。
ちょっと…やってみようかな。
「ねぇ、秀臣さん…」
俺は精いっぱいの甘い声で秀臣さんを呼んだ。
秀臣さんがドキッとした様子で俺を見る。
「俺の脚…いっぱい触って…」
口を半開きにしたり、上目づかいをしたり…思いつく限り色っぽさを意識しながら、ゆっくり見せつけるように、裾を持ち上げていく。
目を見開いてそれを見ていた秀臣さんは急に顔を背けてしまった。
手や肩は小刻みに震えてて、明らかに様子がおかしい。
「秀臣さん…もしかして笑ってる…?」
「すまない。あまりにわざとらしくて…」
秀臣さんは必死に笑いを噛み殺していた。
「笑うなんて酷い。秀臣さんがエッチなの期待してると思ったのに」
俺が抗議すると、秀臣さんの優しい眼差しが向けられた。
「俺は環生に『エロさ』を求めてる訳じゃないんだ。素の環生が、自然な様子で、普段はしないネグリジェの裾を持ち上げる『非日常性』に興奮するんだ」
「えー、マニアックすぎて全然わかんない。せっかく頑張ったのに自信なくしちゃう…」
俺がクッションを抱えながら口を尖らせていると、秀臣さんは膝にキスをしてくれた。
「そういう飾らない環生が愛おしい。わざわざ作らなくても、今の環生のままで充分だ」
まぁ、そのお色気作戦は柊吾が喜びそうだがな…なんて笑いながら。
「秀臣さんって変な人」
色気も飾り気もない普段モードの俺がいいなんて。
「よく言われるな。自覚はないんだが」
自覚してないなんてやっぱり変な人。
俺がふふっと笑うと、秀臣さんも笑った。
こんな噛み合ってるんだか、噛み合ってないんだかよくわからない俺たちだけど、こんな何でもない優しい時間が愛おしいと思った。
「ありがとう、環生。後は俺に任せて環生はゆっくりするといい」
「うん…ありがとう。秀臣さん」
秀臣さんの手つきはだんだん癒すようなゆったりした動きに変わっていく。
歩き過ぎて張ったふくらはぎがほぐれていく。
眠気を誘うような穏やかな手の動き。
「秀臣さん…眠くなってきちゃった」
「後でベッドに運ぶから、そのまま眠るといい」
「秀臣さんも一緒に寝てくれる?1人で寝るの淋しい…」
「あぁ、約束しよう」
話している間にも瞼がどんどん重くなっていく。
意識が少しずつ遠くなっていく。
「おやすみ、環生…」
秀臣さんの優しい声が聞こえた気がした…。
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