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第3章 第19話

次の日、俺はカーテンからもれる朝日で目を覚ました。 隣には穏やかな寝顔の秀臣(ひでおみ)さん。 約束通り一緒に眠ってくれたのが嬉しくて、頰にそっとキスをした。 いつものように皆で朝ご飯を食べて、いつものように仕事帰りの麻斗(あさと)さんとお風呂に入る。 少し触れ合っただけなのに体が反応してしまった俺は、麻斗さんの体を洗うふりをして、こっそり胸を擦りつけた。 「環生(たまき)どうしたの。したくなっちゃった?」 「う、うん…///」 本当は昨日からムラムラしてた。 秀臣さんが見つけた足の指の性感帯。 エッチな触れ方をされて、中途半端に体のスイッチが入ってしまっていた。 でも、結局寝落ちしてしまったから、その欲は解消されないまま。 「秀臣や柊吾(しゅうご)とはしてないの?昨日は秀臣の部屋で寝たんでしょ?」 「うん…。だって、キスマークが…」 (さとる)に抱かれた時のキスマーク。 だいぶ薄くなってきたけど、まだ消えない。 セックスしたいって言ったら秀臣さんも柊吾も抱いてくれるとは思うけど、悟のキスマークがついた体を抱いてって言うのも、抱かれるのにも抵抗があった。 「おいで、環生」 いつもの麻斗さんの膝の上。 一緒にお風呂に入ってるから、もう麻斗さんには見られてしまったけど、何となく恥ずかしくて痕をタオルで隠した。 「隠さなくていいよ。キスマークをつけた彼は環生が可愛くて愛おしくて仕方なかったんだね。環生は『こんなに愛されたんだ』って誇りに思っていいんだよ」 麻斗さんの言葉が嬉しかった。 家事や皆の体のお世話をするのが俺の仕事。 それなのに勝手に外泊して、心配かけて、他の人に抱かれた名残のある体で過ごしてる事に負い目を感じてたから。 「ありがとう…麻斗さん」 「…言いたくないなら言わなくてもいいけど、キスマークの彼と上手くいかなかったのって俺たちが原因?」 「ううん、それは違うよ」 麻斗さんが心配そうな顔をするから、すぐに否定した。 「本当に?お互いの同意がなかったらこんなところにたくさんキスマークをつけるセックスなんてしないでしょ。帰ってきた朝、環生泣いてたし、今もどことなく愛された証を大切そうにしてるし、痕が消えていくのを淋しがってるようにも見えるよ」 麻斗さんには何でもお見通し。 俺の事をよく見ててくれるから。 「相手は昔好きだった人だから…。でも、価値観の違いで上手くいかなくて…。だから麻斗さん達のせいじゃないよ」 「そう…それならいいけど…。俺たちの事は気にせず自由に恋愛していいからね。好きな人ができたら俺たちと体の関係をもたなくてもいいし、ここから出たくなったら出ていってもいい」 麻斗さんは俺を気づかってそう言ってくれたんだとわかってる。 でも恋をした俺が『この家を出て行く』前提なのが淋しかった。 俺はこの家が大好きだから。 「麻斗さんは…俺が出て行ってもいいって思ってるの…?」 不安になって思わず聞いてしまった。 何を言われるか怖かったけど、本心を知りたいとも思った。 「…本音を言うと嫌だよ。もっと言うと、こんなに可愛い環生を誰かに奪われる日が来るなんて想像もしたくない。大事な環生にはずっとここにいて欲しい。でも、環生を縛りつけたい訳じゃないんだ。それはわかってくれる?」 麻斗さんは俺が一番欲しい言葉をくれた。 求められるのも大事にしてもらえるのも嬉しいけど、『恋をするのも、この家を出るのも一生禁止』って言われたら、窮屈に感じてしまう。 でも、『恋人を作って早く出て行ったら?』って突き離されるのも淋しいから…。 だから、麻斗さんの答えは100点満点だった。 「ありがとう、麻斗さん。俺…今の生活が好きだよ。ずっとここにいたい」 「いいよ。好きなだけいたらいい。環生の居場所はこの家だから」 俺の…居場所。 俺…ここにいていいんだ…。 幸せで頰がゆるむのがわかった。 ぎゅっと抱きつくと、麻斗さんも抱きしめてくれる。 触れ合う肌の感触が心地よくて温かい気持ちになった。 「環生はどこで何したい?」 「麻斗さんの部屋がいい。でも…セックスまではしたくなくて」 気持ちいい事をしたいけど、セックスがしたい訳じゃない。 ただ、純粋にこのムラムラを解消して欲しかった。 でも、こんなただの性欲処理みたいな事お願いしてもいいのかな…。 「セックスしないなら俺が適任だね。いいよ、環生が好きなだけイカせてあげる」 麻斗さんは嬉しそうに俺の頰へキスをした。

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