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第4章 第1話side.柊吾

〜side.柊吾(しゅうご)〜 「今日も止まないね…」 俺の隣でレシピ本を読んでいた環生(たまき)が窓の外を眺めて小さなため息をついた。 昼メシが終わって、晩メシの準備をするまでの空き時間。 俺たちはリビングのソファーでくつろぎながら好き勝手過ごしていた。 「梅雨だから仕方ないだろ」 環生が用意したクッキーをつまむ。 もう10日間くらいシトシト降り続ける雨。 今年の梅雨はいつもよりよく降る。 環生は洗濯物は乾かないし、食材の買い出しも大変…と、文句を言うけど俺は雨の日が好きだ。 厳密に言うと、環生がこの家に来てから好きになった。 晴れた日は環生が家事をしようと忙しそうに動き回るし、フラフラ外を出歩くけど、雨の日はどこにも行かず、ずっと家にいる。 手を伸ばせば届く距離に環生がいるのがいい。 優しい環生は外の奴と関わると、すぐに傷ついて帰ってくる。 まだ一緒に住み始めたばかりなのにもう何度も環生の泣き顔を見てきた。 大切な環生が辛い思いをしないよう、囲い込んでしまいたい欲求は日に日に強くなるばかり。 でも環生は環生だ。 俺の所有物じゃない。 環生の自由を制限したい訳でも、俺の思い通りにしたい訳でもない。 それに俺は、感情豊かで素直な環生が好きだとも思う。 悲しい泣き顔だけは見たくないから、『喜怒哀楽』の『哀』だけを失くした世界で生きて欲しいと勝手に思う。 『怒』は必要だ。 環生に言ったら怒りそうだけど、からかうとちょっと怒って頬を膨らます環生は半端なく可愛い。 「眠いなら寝ろよ」 「うん…ありがと。大丈夫」 雨の日の環生は、いつもよりぼんやりして眠そうにしている。 そのくせ、『まだやる事があるから…』と、なかなか休もうとしない。 家政夫を本業にして気合いが入ってるのか、仕事中に寝るのは悪い…と、遠慮してるのか…。 眠いなら寝ればいいし、疲れたなら家事をしなくてもいい。 今まで3人でそれなりにやってきたから、家事は俺たちが代わりにやればいい。 俺たちの望みは、環生がこの家にいて俺たちを癒してくれる事だ。 例え洗濯物がたまっても、部屋がホコリだらけでも。 毎食カップラーメンでもかまわない。 だからもっとダラダラして、気楽に生きればいい。 「眠くなってきた。掛布団の替わりしろよ」 ソファーに寝転んで環生を抱き寄せた。 俺の体の上に乗った環生は、俺も眠くなっちゃうよ…と、俺にくっついた。 これなら俺も環生の側にいられるし、環生も休めて一石二鳥だ。 「明日…実家に行ってきてもいい?」 俺の様子を伺うように環生が聞いた。 環生から実家の話を聞くのは初めてだった。 「ん…環生の実家どこだよ」 もし遠かったらきっと泊まりがけだ。 泊まりがけはマズイ。 そういう時に限って昔好きだった幼なじみとかにバッタリ会って、盛り上がって何かやらかしてくるかも知れない。 「ここから電車で2時間くらい。山ばかりの静かなところだよ」 大丈夫、晩ご飯までには帰ってくるね…と、俺を安心させるようにそっと頬ずりをした。 「頻繁に帰ってる訳じゃないけど、何となく生活が落ち着いたから…近況報告がしたくて」 会社辞めた事も、引っ越した事も言ってないし…と、環生が言った。 「俺たちと…その…体の関係があるって事も話すのか」 「…柊吾はどう思う?」 どうって言われても困る。 普通の親は息子が同居人の男たちとヤラシイ事してるって聞いたら心配するだろ…。 「俺は今のこの生活をしてる自分が好きだよ。家政夫の仕事もやりがいがあるし、柊吾たちとエッチな事して心身共に健やかに暮らせてる気がするし」 その口ぶりだと、話す気満々なんだろうな…と思う。 俺たちとの事を隠そうとしない環生。 それだけ俺たちとの生活を気に入ってるのかと思うと、悪い気はしなかった。 「気をつけて行って来いよ」 待ってる…と、環生を抱きしめる腕に力を込める。 環生の居場所はここだ。 地元が恋しくなっても、俺の温もりを思い出して帰ってきて欲しいと思った。 「どうしたの、今日の柊吾…可愛い」 環生がクスクス笑いながら俺の頭を撫でた。 「別に…。明日の晩メシは環生のうどんが食いたい」 照れくさくて、適当なリクエストをしてごまかした。 「うどん?いいよ、柊吾の好きなかき玉うどんにしようか」 環生はじっと俺の顔を見つめると、恥ずかしそうな顔をしながらチュッと触れるだけのキスをした。 「俺の帰りを待ってくれてありがとう。嬉しい」 そう言ってふわりと微笑むからたまらない。 俺は体勢を変えて環生に覆いかぶさった。 「柊吾…エッチな顔してる///」 頰を染めながら先を期待する環生のエロい顔。 「お前の方がエロい顔してるだろ」 耳元で囁いてやると、そうかも…///と笑う。 今晩絶対に環生を抱くぞ。 嫌がっても体中にキスマークをつけまくって、環生に手を出そうとする地元の男共を威嚇してやる。 「じゃあ…夜に備えてお昼寝しちゃおうかな///」 環生は大人っぽく微笑みながら、そっと俺の胸を撫でた…。

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