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第4章 第3話
実家から帰った次の日の朝の事。
今日の朝ご飯は母さんが持たせてくれた地元のケーキ屋さんの焼き菓子。
子供の頃から大好きなお店。
ここのフルーツケーキが大好物。
昨日の夜は麻斗 さんがお休みだったから、麻斗さんの部屋で過ごした。
俺のキスマークを見た麻斗さんはすぐに柊吾 の仕業だと気づいたらしい。
『柊吾らしい』って笑うから、『笑い事じゃないよ…!』と、体中のキスマークを見せたら、ちょっと引いていた。
『環生 も苦労するね』って、頭をポンポンしながらいたわってくれた。
「柊吾、もう1個食べる?」
俺が麻斗さんの部屋で眠ったから、ちょっと淋しそうな顔をしている柊吾。
俺が声をかけると、すぐに嬉しそうな顔をした。
そんな柊吾を見て、秀臣 さんと麻斗さんが笑う。
相変わらずの幸せな朝のひと時。
「ねぇ、皆のご両親はどんな人?」
3人とも性格や見た目が違うから、ふと気になって聞いてみた。
俺の地元や両親の話を楽しそうに聞いてくれた3人。
皆の家族の話も聞きたくなった。
軽い気持ちで聞くと、急に空気がピリッとした。
3人とも一気に押し黙ったし、聞いてはいけない事だったんだと察した。
「あ…ごめんなさい…」
「いいよ。いつかは話さないと…と思ってたから」
気まずそうにする俺に、麻斗さんが優しく微笑んだ。
「父親は顕在だよ。会社を経営しているんだけど、何をやってるのか正直よくわからない。でも毎月生活費は送られてくるから、きっと仕事はしてると思うけど…。たぶん今はロンドンに住んでるはず。最近は2〜3年に1回会う程度だよ。母親はどこにいるかわからない。生きているのかどうかさえも…」
麻斗さんが話してくれたお父さんの事は『たぶん』とか『きっと』とか不確定要素が多すぎる気がする。
でも、嘘をついている感じでも隠し事をしてる訳でもなさそう。
本当によくわからないのかも。
それにお母さんの行方がわからないのも踏み込んではいけない事のような気がしたから、俺から家族の事に触れるのはやめようと心に誓った。
「環生、気をつけてね。基本的に帰って来ないから会う事はないと思うけど、あの人の話は適当に聞き流して。あの人のペースに巻きまれたら大変な目に遭うからね」
麻斗さんが心底心配するように俺を見た。
「外見はまともだが、こっちの話は全然聞かない変わった人だからな」
うんうんとうなずく秀臣さん。
「いきなりアイツのワガママに付き合わされて1日で逃げ出した家政夫いたよな」
…と、柊吾。
ど、どんな人なんだろう…。
どちらかと言えば変人のジャンルに分類される3人が変わってるって言うんだから、よほど変な人なのかな…。
それとも変人から見た変人だから、実はまともとか…?
そんな事を考えていると、玄関のドアが開く気配。
誰だろう…不思議に思って立ち上がると、柊吾が俺の手をつかんで首を横に振った。
「やぁ、久しぶりだな息子たち。元気だったか?」
いきなりリビングのドアが開いて、渋くて背の高いオシャレで素敵なオジサマが姿を現した。
「噂をすれば…だね」
麻斗さんが苦笑いをした。
秀臣さんも一緒にうなずく。
柊吾は俺を背後に庇ってくれた。
「どうした、どうした。久しぶりの再会なのにその顔は」
「父さん、連絡をくれたら空港まで迎えに行ったのに…」
麻斗さんが話しかけてもお父さんは聞いてなさそう。
「君が新しい家政夫さんかい?」
「は、はい…。相川 環生です」
俺は柊吾の陰からペコリと頭を下げた。
「環生…いい名だ。俺は秀臣たちの父親の誠史 だ」
よろしく…と、誠史さんはそう言って手を差し出した。
「あ、ありがとうございます…。よろしくお願いします」
俺もそっと手を出して握手をした。
この人が皆のお父さん…。
若々しくてエネルギッシュで、とても30歳の息子がいるようには見えなかった。
「さて環生、今からお泊まりデートをしよう。久しぶりの日本だから海が見える温泉旅館がいいな」
「えっ…?」
今、何て…?
お泊まりデート??
俺と???
泊まりがけの温泉って、初対面の人とその場のノリと勢いで行くようなところだっけ…?
「父さん、環生が困ってるよ」
麻斗さんが助け船を出してくれた。
「準備もしていないのに、いきなり1泊旅行なんて無理だろう」
秀臣さんも加勢してくれた。
「環生は今日、俺のハンバーグを作る約束をしてるんだ」
柊吾は明らかに不機嫌そう。
「お前たちには聞いてない。環生はどうだ」
「む、無理です…。俺、今日は食材の買い出しとクリーニングの受け取りがあって…。それに、食事の仕度も…」
急展開にうろたえながらも、失礼がないように言葉を選びながらお断りをしようと頑張る。
「あぁ、そんな事ならかまわない。息子たちはいい大人なんだから、放っておけばいい。予約は行き道ですればいいし、足りない物は現地調達しよう」
誠史さんは、俺の腰を抱くと、そのまま強引に俺を連れ出した…。
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