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第4章 第9話

家族の話はランチのフランス料理のお店までだった。 『食事は楽しい話をしながらしよう』って言うから、日常会話を楽しんだ。 誠史(せいじ)さんの仕事や趣味の話、俺の学生時代の話やサラリーマン時代の話も聞いてくれた。 特別な知識のない俺でも高級だってわかるコース料理。 盛り付けもオシャレで食べてしまうのがもったいないくらい。 コンソメスープが好きな秀臣(ひでおみ)さん。 白身魚が好きな麻斗(あさと)さん。 牛肉が好きな柊吾(しゅうご)。 皆にも食べて欲しい。 皆は今頃、何を食べてるのかな…。 どれも美味しくて嬉しいけど、自分だけご馳走を食べているのが少し淋しい。 いつもは同じ物を食べてるから…。 今度は3人とも一緒に来たいと思った。 ランチの後はショッピング。 本当に手ぶらで来てしまったから、お互いの着替え一式や、必要な物を買った。 センスのいい誠史さんは俺の洋服を丸ごと選んでくれた。 自分では絶対に選ばない色のカットソーだったけど、試着をさせてもらったら、なかなかいい感じだった。 眺めのいいお店で飲んだコーヒーもいい香りだったし、話題も豊富で物知りで優しくてカッコイイ誠史さんとのデートは楽しくて仕方なかった。 このまま家に帰っても大満足なくらい素敵な時間を過ごした。 夕方、旅館に到着した俺たちが案内されたのは、露天風呂付きの客室だった。 2人きりのお風呂にドキドキしたけど、少しホッとした部分もあった。 だって体中に柊吾のキスマークがついてるから大浴場に行くのは恥ずかしい/// 「誠史さん、お風呂お先にどうぞ」 「環生(たまき)は入らないのかい?」 「はい、俺は後からにします」 誠史さんは運転で疲れてるはずだから、先に入って疲れを癒して欲しかった。 「せっかく一緒に来たんだ、2人で入らないか」 「えっ…///」 誠史さんと2人きりでお風呂/// い、いきなりそんなエッチな事…! 急に心臓がバクバク言い始めた。 俺が慌てていると、誠史さんは不思議そうな顔をした。 そうだった…忘れてた。 誠史さんは奥さんがいたから、きっとノンケさん。 俺たちは男同士。 一緒にお風呂に入るのは、誠史さんにとってはごく自然な事。 俺が変に意識したら誠史さんも困ってしまうはず。 「…いいんですか?」 「もちろん。何か問題あるかい?」 「いえ…。俺、浴衣とタオル用意してきます。誠史さんは先に入っててください」 俺はそれだけ伝えて、大急ぎで洗面所へ逃げた。

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