96 / 420

第4章 第18話

誠史(せいじ)さんと旅行に行ってから、あっという間に半月がたった。 俺は気が向くと、誠史さんにメールを送るようになった。 自由で忙しい誠史さんの負担にならないよう、季節の事や体に気をつけて…みたいな一方的な内容で。 返事はもちろん来ないけど、それでよかった。 俺は相変わらず日替わりで皆のベッドに潜り込む毎日。 最近は秀臣(ひでおみ)さんが仕立ててくれた浴衣(わざわざ温泉旅館みたいな簡易タイプ)を着て眠る。 俺が浴衣を着ると皆嬉しそう。 秀臣さんは俺が脱いでいくところを見た後、また丁寧に着せてくれる。 麻斗(あさと)さんは着てる状態でイチャイチャして、浴衣が乱れていく感じが好きだって言う。 柊吾(しゅうご)は俺を恥ずかしがらせながら脱がせるのが好きらしい。 俺は皆が喜んでくれるのが嬉しいし、色々経験できるから毎晩楽しい。 時々エッチな事もして、楽しく暮らしていた。 でも、ふとした瞬間に誠史さんを思い出す。 あの優しい眼差しと、においが恋しい。 あれ以来、皆の耳の後ろのにおいを嗅ぐ癖がついてしまったけど、あんなに甘くて性的なにおいがするのは誠史さんだけ。 またあのにおいを嗅ぎたい…。 淋しくなると、こっそり部屋に行ってネックレスを身につける。 2つ寄り添った星のデザインは、もしかしたら俺の側にいるよ…って、誠史さんなりのメッセージなのかも。 それに気づいてからは、ますます恋しくなった。 会いたいって連絡しようかな…。 でも、また近いうちに帰ってきてくれるって言ってたから、おとなしく待っていようかな…。 そんな事を思っていたある日の事。 珍しく誠史さんから電話がかかってきた。 お昼ご飯を済ませてちょうど手が空いた時間帯。 リビングの置時計を確認したらロンドンはまだ早朝だった。 『環生、元気にしてるかい?』 「はい、元気です」 『そうか、それならいい。環生に会いに行くと言った約束を守ろうと思ってね』 覚えててくれたんだ…。 「嬉しいです。いつですか?俺…誠史さんにご飯作ってあげたいから、飛行機の日にちと時間がわかったら早めに教えてください」 『わかった。今度からちゃんと連絡しよう』 え…? 今、今度って…? そう思っていたらピンポーンとインターホンが鳴った。 もしかして…! 急いで玄関まで走って行ってドアを開けるとそこには誠史さんが立っていた。 「ははは、今度帰ってくる時は事前に連絡するよ。ただいま、環生」 「誠史さん…!」 目の前で起きてる事が夢みたい。 会えたらあれを聞こう、これを話そうって楽しみにしてたのに驚きすぎて記憶が飛んでしまった。 「どうした、泣かなくてもいいだろう」 誠史さんは、感情の整理がつかずに泣いてしまった俺を抱きしめて頭を撫でてくれた。 「だ、だって…。誠史さんが急に帰ってくるなんて思わなくて…」 ズズッと鼻水をすすりながら誠史さんに抱きついた。 においを嗅ごうと耳元に鼻先を寄せたけど、鼻が詰まっていてよくわからなかった。 「おかえりなさい、誠史さん。帰ってきてくれて嬉しいです」 俺は誠史さんの頰にそっとキスをした。

ともだちにシェアしよう!