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第4章 第19話
〜side.誠史 〜
ロンドンに戻って4〜5日後。
環生 から2通めのメールが届いた。
1通めは温泉旅行のお礼や息子たちの事、2通めは置き時計をリビングに置いた事や、俺の体調を気づかうものだった。
文字を追う毎に環生の優しい声がするような気がして、日本時間に合わせた置き時計に目をやった。
遠慮がちにこれをねだった環生。
買い与えたら花が咲いたような笑顔を見せた。
来月にでも帰ろうと思っていたが、急に環生に会いたくなった。
甘えてくる柔らかな温もりを感じたくなった。
仕事の都合で帰国したのはそれから一週間後。
前ぶれもなく帰った俺の姿を見た環生はぐしゃぐしゃの顔をして泣いた。
それほど俺に会いたかったのか…と自惚れてしまう。
慰めるように抱きしめると、甘えるように抱きついてきた。
俺の耳の後ろのにおいを気に入ったらしい環生は、すぐに鼻先を寄せてくる。
顔を埋めた環生の髪は、旅館で感じたにおいと違ったほのかな甘さがあった。
こんなにハイペースで帰国した俺を見た息子たちは随分驚いた様子だった。
食材を買いに行こうとする環生を4人で引き止めた。
環生に会いに来たのに環生が留守にしたら意味がない。
息子たちも俺たちが4人だけになるのを避けたがっているように見えた。
『何か和食を作っておもてなししたかったのに…』と残念そうにする環生をなだめて、出前の寿司をとった。
『お吸い物くらいは作ろうかな』と言いながらキッチンに立った環生は、冷蔵庫の中身や乾物を組み合わせて小鉢を2品も作った。
味つけを誉めた時の環生のはにかんだ表情が見られただけでも帰国した甲斐がある。
そんな環生を見守る息子たちの表情もリラックスしたものだった。
俺の部屋はないから環生の和室に来客用の布団を敷いて2人並んで眠る事になった。
環生は『掃除が行き届いてないのに…』と、風呂上がりにまだ片付けようとするから、布団の上に来るように声をかけた。
「お、お邪魔します…」
「お邪魔も何も、ここは環生の部屋だろう?」
緊張した様子で俺の正面に正座をする環生。
左手に何かを握っているように見えた。
この前の浴衣姿もよかったが、カジュアルな部屋着もなかなかだ。
「会いたかったよ、環生。やっと2人きりだ」
側へ移動して抱き寄せる。
こめかみのあたりに触れるだけのキスをすると、くすぐったそうに微笑んだ。
「俺も…会いたかったです。帰ってきてくれて嬉しいです///」
もじもじしながら俺の肩に頭を乗せた。
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