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第5章 第3話
次の日のお昼過ぎ、俺は買い物帰りに豪 さんの家を訪ねた。
インターホンを鳴らすと、少しの間の後ドアが開いた。
出てきた豪さんは黒いタンクトップに黒いカジュアルパンツ。
丸出しの二の腕の筋肉がすごかった。
タオルを首に巻いていたし、髪が濡れていた。
もしかしたらお風呂上がりだったのかも。
濡れた髪がセクシーでちょっとドキッとした。
「ごめんなさい、タイミングが悪くて…///昨日はありがとうございました。あの、これ…少しだけどお礼の気持ちです」
俺はさっき買ってきたおつまみの詰め合わせを差し出した。
本当はお菓子が定番かな…と思ったけど、一人暮らしだからお菓子ばかりだと持て余してしまうかも知れない。
日持ちのするおつまみを選んだから、好きなお酒のお供にして欲しいと思った。
「お礼なんて気にしなくていい。でもせっかくの『気持ち』だから頂こう。それより環生 の元気そうな顔が見れてよかった」
ありがとう…と、豪さんの表情が和らいだ。
キリッとしてる豪さんもいいけど、柔らかい笑顔の豪さんもいいな…。
胸のときめきを感じたけど、悟られたら恥ずかしい。
お風呂上がりだし、おいとましようと思った時に視界に入った水槽。
「キレイ…」
雪のように真っ白でところどころ青みがかっているキレイな色の熱帯魚が1匹優雅に泳いでいた。
尾びれも長くて神秘的。
こんなにキレイな熱帯魚初めて見た…。
「中にもたくさんいるからおいで」
豪さんに誘われてリビングへ通してもらう。
「わぁ、オシャレな部屋。モデルルームみたいです」
全体的にダークブラウンがベースの大人っぽい部屋。
同じマンションなのに床材や扉の色が違って新鮮な雰囲気だった。
使いかけのカップが机に置いてあったり、取り込んだ洗濯物が床に広げてあったり…と、程よい生活感のある部屋。
ジロジロ見たら失礼だから、なるべく見ないように気をつけた。
大きな水槽には色鮮やかで小さくて可愛い熱帯魚がたくさん。
俺が側へ行くと、何となく俺の方に集まってきた。
口をパクパクさせてるのが可愛くて夢中で見つめていると、豪さんが紅茶を淹れてくれた。
ソファーに座るように声をかけられた時、とんでもない事に気づいた。
俺、昨日知り合ったばかりの男の人の部屋にいる…。
しかも2人きり。
いくら隣の人で昨日助けてくれた人の家でも、こんな事しちゃうなんて、はしたない…!
動揺したけど、変に意識して過剰に反応するのも失礼だ。
おもてなしをしてくれてるだけ…。
紅茶を飲んだらすぐに帰ろう。
そう思い直して、豪さんが座っているソファーの隣にかけた。
「お酒、平気?香りづけに少しブランデーを入れてみたんだ」
「あ、はい…。少しなら大丈夫です」
促されて一口飲むと、紅茶の華やかな香りとブランデーの豊かな香りが口中に広がった。
「美味しい…。こんなオシャレな紅茶初めてです」
喜ぶ俺を見た豪さんもカップに口をつけた。
昨日はパニックになっていて余裕がなかったけど、よくよく見たら端正な顔立ち。
歳はきっと秀臣 さんくらい。
タンクトップの上からでもわかる厚い胸板。
俺なんか片手でひょいっと抱き上げてしまいそうな太い腕。
ワイルドな男の色気。
何を食べて何をしたらこんなに筋肉質になれるんだろう。
「環生は男に興味あるの?」
さっきからずっと見てる…と指摘されて顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
「あの、その…すごい筋肉だなぁって///」
俺、貧相な体だから、逞しい体に憧れるって言うか…と、モゴモゴ言いながらごまかすように紅茶を飲んだ。
「触ってみる?」
「えっ?」
「いいよ、触っても」
「…そ、それなら…少しだけ…///」
遠慮がちにタンクトップの上から胸に触れてみたら、人体とは思えないほど張りがあって堅かった。
「すごい…///」
何だろう、筋肉がぎゅっと詰まってる感じ。
弾力が気持ちよくて思わず両手で胸を揉んでしまった。
こんな感触初めて…!
「ジムに通ったり、家で筋トレしたりして鍛えてるからね。腹筋も割れてるよ」
豪さんが俺の手をお腹に導く。
興味本位で撫でたら本当に割れていた。
「すごいしか言えないけど、すごいです。俺とは違いすぎて…!」
興奮気味に伝えると、豪さんはちょっと嬉しそうだった。
「どう違うか、俺も触っていい?」
「えっ…///」
一瞬驚いたけど、散々触りまくったからお互い様だ。
きっと俺の薄っぺらい体が珍しいのかも。
でも、触りごたえがないだろうから、恥ずかしい…///
うつむきながらうなずくと、豪さんがそっと俺の背中に触れた。
「柔らかいね。丁寧に触れないと傷つけてしまいそうだ」
大きな手が肩や二の腕に触れる。
洋服越しに伝わってくる豪さんの熱。
こんなに力強い腕なのに、触れ方は優しい。
「気持ちよくてずっと触っていられそうだ」
最初は触れていただけなのに、だんだん撫でるような手つきになって、時々揉むような動きも加わってくる。
「あっ…///」
思わず上ずった声が出てしまって、慌てて口を塞いだ。
「どうしたの?ムラムラした?」
そう言う豪さんも欲情した瞳で俺を見ていた。
その雄の眼差しに、お腹の奥の方が熱を持つのがわかった。
「環生の体は柔らかくてマシュマロみたいだ」
反応を見ながら俺の薄い胸やお腹を丁寧に撫でていく。
それはもう愛撫に近くて、どんどん性感が高まっていく。
きっと今、とろけたエッチな顔してると思う。
物欲しそうな顔で豪さんから与えられる快楽を待ってる。
『昨日知り合ったばかりの人とエッチな事なんてダメ。流されないで』
『いいじゃん、恋人もいないんだし。自分の気持ちに素直になって気持ちいい事しちゃえば』
お利口さんの俺の理性と、目の前の雄に抱かれてめちゃくちゃにされたい本能が葛藤してる。
「えっと、その…///俺、男です…!」
「知ってるよ。俺はどっちでも抱けるから問題ない」
環生は男がいいんだろ…と、頬を撫でられる。
「普段だったら『しようか』って誘うけど、昨日の今日だし、環生の家の人にも会ってるからね」
どうする…?と指先で俺の下唇を撫でた。
昨日痴漢されたばかりだし、知り合って間がない事に戸惑う俺の気持ちを汲んでくれた豪さん。
麻斗 さんや柊吾 に会ってるから手を出しにくいのもわかる。
豪さんにだったら身を任せてもいい。
本能的にそう思った。
「したい…。豪さんにもっとエッチな事して欲しい…」
俺は豪さんを見つめたまま口元の指先を甘噛みして、その先端をペロリと舐めた。
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