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第5章 第4話

「いつも、そんな風にエッチな事して男を誘ってるの」 「そ、そういう訳じゃ…///」 慌てた俺が指先から唇を離すと、追いかけるように重なった唇。 角度を変えながら少しずつ俺の口内に侵入してくる厚くて力強い舌。 俺…(ごう)さんとキスしてる…。 唇が触れ合う音や唾液が絡み合う音、荒くなる吐息。 頭の奥の方がとろけていく感じ。 自分からエッチな事してって言ったくせに怖気づいてちょっと逃げ腰になる。 「…怖い?」 「少しだけ…」 「一緒だ。実は俺も怖い」 そう言って豪さんが苦笑した。 今さっきまであんなにグイグイきてたのに怖いなんて嘘みたい。 俺に合わせてくれてるのかな…。 「気に入った子が家に来て、手が届くところにいて、エッチな事してなんて言い出したら…嬉しいけど怖くもなる」 「…豪さん、俺の事気に入ってくれたんですか?」 俺が尋ねると、急に豪さんの頰が赤くなった。 「電車で見かけた時に…って言ったら信じる?可愛い子がいるな…と思って、目で追ってるうちにあんな事になって…」 そう語る豪さんの瞳は、嘘をついている感じじゃなかった。 「俺は卑怯者だ。最初から環生(たまき)に下心があった。あったから助けた。家が隣だって知って、またいつか会えるのが楽しみだった」 内容は衝撃的だったけど、可愛いって誉められてちょっと嬉しかったし、包み隠さず話してくれたから、むしろ気持ちよかった。 「ごめん…、引いたよね…」 明らかに落ち込んでしまったから、慌てて首を横に振った。 「俺…自分の容姿にさほど自信がなくて…。でも、この顔と体に産まれてよかったって思いました。豪さんが見つけて助けてくれたから、怖い思いしたの少しで済みました」 ありがとうございました…と伝えると、豪さんは安心したように笑った。 「ありがとう、環生。環生は本当に素直で優しい。恋人になってって言えないのが辛いな」 「告白…してくれないんですか?」 「しないよ。俺をフッたら環生は2度と遊びに来てはくれないだろうし、エレベーターで会っても気まずそうにするだろう。だから言わない。隣人として環生が仲良くしてくれるのを望むよ」 秀臣(ひでおみ)さん達もちょっと変わってると思うけど、豪さんもなかなか。 告白する前からフラれて避けられる前提で、俺と仲良くしたいから告白しないなんて前向きなんだか後ろ向きなんだかよくわからない。 もう告白したのと同然なのに。 どうやったら俺といい関係でいられるのか必死に考えてくれたのかな…と思うと、ちょっと可愛く思えてきた。 「豪さん、ただの隣人にこんな濃厚なキスしちゃうんですね」 エッチ…と、からかうように人差し指で豪さんの唇をツン…とつつくと、豪さんは一気にうろたえ始めた。 「…っ、…環生は魔性の男かも知れない。受け身で可愛い感じかと思えば、エッチな誘い方や俺をもてあそぶような事をする」 「魔性だなんてそんな事…///」 ある訳ないです…と必死に否定する。 保科(ほしな)家の皆といい、豪さんといい、このマンションの人は特殊な感性持ちさんが多いんだろうか。 「格好悪いところを見せついでに、もう1個いい?」 「はい…いくらでも」 申し訳なさそうな豪さん。 俺の返事を聞くと照れくさそうに笑った。 「環生からも触って。キスしてよ」 どんなエピソードが飛び出すのかと思っていたら、意外とノーマルだった。 抱きしめてキスして欲しいなんて、格好悪い事でも何でもない。 「俺さ、この体格だから『強そう』とか『男らしい』って思われがちなんだよね。男らしいって思われるのも頼られるのも嬉しいけど、いつでもリードしてくれるって勘違いされて、割と相手の子が受け身になっちゃうんだ」 淋しそうな豪さんの声。 俺は相槌をうちながら、豪さんの話に耳を傾けた。 「本当は俺だって甘えたいし、抱きしめられたい。キスだってして欲しいんだ」 こんなに大きくて強そうなのに、甘えたいなんて可愛すぎる…。 確かに俺も豪さんに丸投げして、気持ちいい事をしてもらう気満々だった。 固定概念やイメージが先行して、言いたい事が言えないのは淋しいと思った。 悪い事しちゃったな…と思う。 それに、今まで皆の期待に応えて甘えたいのを我慢してきたのかと思うと、どうしようもなく愛おしかった。 「いいよ、豪さんの気が済むまてぎゅーってしてあげます。本当は俺も甘えたい派だけど、豪さんの望み叶えます」 俺は豪さんを抱き寄せると、そのままソファーに横になった。 体が大きくて筋肉質な豪さんは、硬くて重かったけど、全部受け止めたいと思った。 慈しむようにゆっくり背中を撫でる。 豪さんは重いだろうとか、恥ずかしいとか言ってたけど、気にせずあちこち撫でていたら、遠慮がちに甘え始めた。 大きな熊さんに懐かれたみたいで可愛いなぁと思う。 今までは甘えたい度100%だったけど、最近は甘えられるのも好きだと思うようになった。 俺に甘えて癒される穏やかな顔を見ると、俺も役に立ててるって嬉しい気持ちになるから。 先に甘えてもらって、その後で目いっぱい甘やかしてもらうのも好きだから。 「豪さん、可愛い…」 前髪をかき分けて、おでこにそっと唇を寄せた。

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