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第5章 第7話(※)

「あぁんっ!」 一度奥まで受け入れたから、さっきよりスムーズに(ごう)さんが入ってくる。 すぐにイッちゃったらどうしよう…って思ってたけど、豪さんが前立腺に当たりすぎないように角度を調節してくれてるみたい。 気持ちいいけど、何も考えられなくなるほど気持ちよすぎなくていい感じ…。 「痛くない?」 うなずいて豪さんの耳を甘噛みすると、温かく微笑んでくれた。 「可愛いしか言えないけど、環生(たまき)は本当に可愛い」 その優しい声と微笑みに胸がキュンとなる。 嬉しくなって、豪さんにチュッとキスをする。 もっとして…って言うから、ついばむようなキスをしていると、豪さんはさり気なく俺を抱く体勢を立て直す。 「重くてごめんなさい…」 いくら俺が痩せてても一応成人男子。 ある程度の骨格はあるから軽くはないはずなのに、ずっと抱っこしてくれてるなんて…。 「重くないって言ったら嘘になるけど、嬉しい重みだからいいよ。でも環生がくっついてくれたら楽かな…」 教わった通りに俺からも体を寄せて、豪さんに脚を絡めると、さらに密着感が増して甘えたい欲が満たされる。 駅弁…最高かも。 「少しずつ動くよ。辛かったら教えて」 「はい…///」 甘えた顔まで可愛い…と、独り言のように呟いた豪さん。 ゆっくり腰を上下に動かし始めた。 「ふあぁ…、気持ちよくて…んっ、ゾクゾクします…///」 対面座位より動きがスローな分、たっぷり豪さんの形や大きさを楽しめる。 力強く抱きしめられると、今抱かれてるんだ…って実感できて嬉しいし幸せ。 駅弁…気持ちいい。 したのは初めてだけど、俺はすっかり駅弁がお気に入りの体位になってしまった。 でもきっとこんな体位で抱いてくれるのは豪さんだけ。 体が大きくて力持ちの豪さんだからできる事。 限定の体位かと思うとますます夢中になる。 宙に浮いた状態で下からズン…ズン…と突き上げられると、今まで味わった事のない快感が体中を駆け巡る。 俺も必死にしがみついてはいるけど、豪さんが手を離したら落っこちてしまうっていうスリルもたまらない。 生命も快楽も全部彼任せ。 「あぁんっ、あんっあん…もっと…!」 俺が悦ぶからだんだん突き上げが激しくなっていく。 なるべく豪さんの負担にならないよう体や頰をくっつけるけど、汗で滑るし、俺の持久力がなさすぎて揺さぶられる度にずり落ちそうになってしまう。 普段から筋トレしておけばよかった。 腹筋や太ももがつってきたし、もう腕に力が入らない…。 「力抜いていいよ。ベッドに行こうか」 腕がぷるぷるしてるのに気づいた豪さんは、俺を抱いたまま寝室へ連れて行くと、ベッドへ寝かせてゆっくり俺の中から出ていった。 これでおしまいなんて淋しい。 もっと抱いて欲しいと思ったけど、あちこちガクガクで自分の体じゃないみたい。 豪さんを満足させるどころか、抱きついてキス一つする事さえもできない。 自分の無力さに涙がこみ上げてきた。 「やだ、側にいて…」 イヤイヤをして訴えると、驚いた様子の豪さんは俺の隣で仰向けになると、体の上に俺を乗せてくれた。 肌で感じる豪さんの体。 俺がいいポジションにおさまったのを確認すると、優しく抱きしめてくれた。 「どうして泣いてるの」 「だって俺…全然上手くできなくて、それで…」 ズズッと鼻水をすすりながら、たくましい胸に頬ずりをしていると、ふわりと後頭部を撫でられた。 「泣かなくていいよ。初めてだから仕方ないし、俺が余計な事を言って環生を頑張らせすぎちゃったね」 気持ちよかったよ…と、慰めてくれるけど、俺の気持ちはおさまらない。 どうにかして豪さんの欲求を満たしてあげたい。 「俺、もう力がなくて何もできないけど…まだセックスしたい。横になってるから、後ろから抱いてください…」 腕も脚も限界だったけど、寝バックならできると思った。 俺の体でイッて欲しい…。 「ありがとう、環生。でも、後ろからは止めた方がいいし、義務のように俺をイカせようとしなくてもいいんだよ」 「やだ、したい。抱いて欲しいです」 『次』の機会があるかわからない。 だからこそ思い出に残る時間を過ごしたい。 それだけは絶対に譲りたくなかった。 「環生は予想以上に頑固だね」 困ったな…と、ちょっと呆れた様子の豪さん。 仕方ない…と言わんばかりに、俺をベッドにおろすと横向きに寝かせてくれた。 「本当にするの?また今度にした方がいいんじゃない?」 心配そうに声をかけてくれたけど、俺は今すぐヤル気満々だった。 「早く…豪さん」 振り返って豪さんの手を引く。 ちょっとだけ可愛くおねだりしてみた。 「その顔わざとだね、もう」 わざとらしくため息をついた豪さんの触れるよ…の合図と、背中に感じた手の温もり。 心臓がドキン!と跳ねた。 急に胸がザワザワして冷や汗が出てきた。 目の前が暗くなって胃のあたりがキリキリ痛むし、吐き気もしてきた。 「や…嫌…!」 腰のあたりを撫でられた時、条件反射でベッドから逃げ出してしまった。 昨日の痴漢を思い出してしまったから。 豪さんが触れてるってわかってるはずなのに、顔が見えない状態で背中を触れられた事が怖くてたまらなかった。 「ほら…、昨日の事思い出して怖くなったんでしょ」 豪さんはベッドからおりると、自分の体を抱きしめて震える俺の肩にカーディガンをかけてくれた。 「ご、ごめんなさい…俺…!」 「大丈夫、環生は悪くない。全部昨日のアイツが悪い」 謝らなくていいんだよ…と、俺の正面に座った豪さんは手を握ってくれた。 「今日はもうおしまいにしよう」 「で、でも…!」 今終わりにしたら中途半端だし、思いっ切り拒絶してしまったから豪さんに申し訳なさすぎる。 でも、怖い。 怖くてできる気がしない…。 「こんな状態の環生にこれ以上無理はさせられないよ。ここでエッチな事を続けて環生を性の捌け口にしてしまうなら、昨日の痴漢と変わらないよ。環生がしたいって思った時にまたしよう」 子供に諭すように落ち着いたトーンでゆっくり話してくれる豪さん。 昨日も今日も俺に優しくしてくれるのに、俺は何もできない…。 俺、泣いてばかり。 ただの遊びのセックスなのに、こんなに泣いてワガママ言って、面倒くさすぎる。 しょんぼりしていると、豪さんが頭を撫でてくれた。 「そうだ、1分待ってて」 豪さんは寝室を出ていくと、1分しないうちに戻ってきた。 「これを環生に」 手に持っていた小さなメモを俺に渡してくれた。 「呈茶券…?」 「そう。美味しい紅茶淹れるからまたいつでも遊びにおいで」 手書きの『呈茶券』には連絡先と『有効期限なし』の言葉が添えられていた。 豪さんの優しさが胸に染みた。 俺の状況を察して、気持ちを尊重してくれた事。 また会いに来るキッカケをくれた事。 会いに来る事がプレッシャーにならないように、わざと『有効期限なし』って書いてくれた事も。 この小さな呈茶券には豪さんの優しさがギュッと詰まっている気がした。 「ありがとうございます…豪さん」 どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう…。 俺、何もできないのに…。 今度は嬉し涙が溢れてきた。 豪さんが指先で涙を拭ってくれた。 『泣かないで』って俺の涙を止める事も、必要以上に俺に触れる事もしない。 ただ、ありのままの俺を受け入れてくれる。 豪さんの側は温かくて優しい空気に満ちていた…。

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