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第5章 第8話
「豪 さん、本当にいいんですか?」
「いいよ、もうここまで来たし」
ここは俺の家の前。
豪さんの家へ行く事を皆に伝えてなかったし、隣だから1人で帰れるって言ったけど、『元気のない環生 を見たら、家の人が心配するから…』と、わざわざ家まで送ってくれた。
俺の姿を見て大体の事を察した柊吾 が『環生に何をした!泣かせたのか!?』って豪さんにつかみかかろうとしたから、急いで秀臣 さんが止めた。
俺の事になると柊吾はすぐに見境がなくなってしまう。
豪さんは事の顛末(さすがにセックスした事は内緒だけど)を麻斗 さんに説明すると、俺を怖がらせてしまったと玄関先で深々と頭を下げた。
「豪さんが謝らないでください。麻斗さん、悪いのは全部俺なの…!」
麻斗さんは、俺を見てうなずいた。
話を聞いていた柊吾が騒ぎ始めたから、秀臣さんはそのまま柊吾を連れて中へ行ってしまった。
「騒がしくてすみません。それに環生が2日続けてお世話になりました」
麻斗さんも何かしら感じているだろうけど、大人の対応をしてその場をおさめてくれた。
柊吾に『何があったか説明しろ』って迫られて怯えていると、麻斗さんが部屋に匿ってくれた。
「麻斗さん、心配かけてごめんなさい…」
「本当だよ…。環生にはいつも驚かされる」
麻斗さんは優しく微笑んだ。
怒ってなさそうでホッとする。
でも、お腹の中ではきっと怒ってるんだろうな…。
「環生は大人だし、環生がいつどこで誰と何をしようと口を出すつもりはないけど…」
麻斗さんはそう前置きをして話し始めた。
「いくら隣の人でも、昨日知り合ったばかりだし、その人の家にあがって、体の動きがぎこちなくなるくらいセックスして、泣き腫らした顔で帰ってきたら心配するよ」
「どうして、それ…///」
皆にセックスした事は言うつもりなかったのに。
なるべく体の痛みを堪えて普通っぽく振る舞ってたのに。
「俺たちがどれだけ環生を見てると思ってるの。2人の距離感や環生の顔を見てたらわかるよ。柊吾もそれを感じたから騒いでる訳だし」
「ごめんなさい…。これから気をつけるね」
「いいよ、もう。無事に帰ってきたならそれで」
そこまで言うと、麻斗さんはふうっと大きく息を吐いた。
「麻斗さん…怒ってる?」
「ちょっとね…複雑な気持ち。こんなに環生を大事にしてるのに、心配ばかりかけて…って思ってる。でも俺が勝手に心配してるだけだから環生に恩着せがましく言うのも違うかな…とも思う。俺たちが心配するってわかってるのに、こんなになるまで抱かれてきて…。でも渡瀬 さんを信頼してるみたいだから、彼はいい人だったんだなぁと思って安心してる部分もある」
だから複雑だよ…と、困った顔をした。
豪さんは優しくて俺を大切にしてくれた事。
セックスはちゃんと同意の上で始めた事。
抱かれてる途中で痴漢された事を思い出して、怖くて泣いた事を打ち明けた。
麻斗さんは黙って話を聞いてくれた。
俺を抱きしめると、怖かったね…もう大丈夫だよ…と安心できるような言葉をかけてくれた。
柊吾もだけど、麻斗さんも相当俺に甘い。
ココアみたいに甘くて優しくて…あったかい。
皆と一緒に暮らせてよかった。
皆と一緒なら辛い事も乗り越えられると思った。
「今日も秀臣の部屋で寝る?俺、仕事行っても大丈夫そう?」
しばらく麻斗さんにくっついて落ち着いた頃を見計らって声をかけてくれた麻斗さん。
「今日は柊吾の部屋にする。柊吾、きっとすごく心配してくれてるし、あんまり仲間外れにするとスネちゃうから…」
昨日も柊吾はものすごく怒って、痴漢を見つけて酷い目にあわせてやるなんて物騒な事を言い出すし、俺に何があったかを全部聞き出そうとした。
頭に血が昇りすぎて荒れてる柊吾と、怖い目に遭って情緒不安定になった俺を一緒にすると危ないから…と、秀臣さんが一緒に眠ってくれた。
今日もこうやって麻斗さんの部屋にいて柊吾と話をしていない。
『ごめんね』と『ありがとう』を伝えたかったし、自分の言葉できちんと話したいと思った。
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