120 / 420
第5章 第10話side.柊吾
〜side.柊吾 〜
「…っ、もういい!」
環生 は吐き捨てるように告げてリビングを飛び出していった。
俺は、はぁ…とため息をついた。
最近の環生は本当に危なっかしくて仕方ない。
初対面の父さんと外泊したり、いきなり帰国した父さんと毎晩ヤッてたり。
昨日も痴漢被害にあったし、今日なんて昨日知り合ったばかりの男の家でセックスしていた。
どうなってるんだ、アイツの貞操観念は…!
いつからあんなに節操なしになったんだよ…。
そうは思うけど環生が貞淑な奴だったら、俺たちとの生活なんて成り立たないだろうし、そもそも3Pや4Pに環生を巻き込んだのは俺たちだ。
俺たちとの淫らな生活で少しずつリミッターが壊れていって、あんなに奔放になってしまったんだろうか。
それなら責任は俺たちにある。
それに、本来環生が誰と付き合おうが、セックスしようが環生の自由だ。
環生は俺たちの所有物じゃない。
環生に頼まれた訳でもないのに、勝手に心配して、勝手に期待して、思い通りにならなかった環生に対して勝手に裏切られた気分になって…。
俺の態度は完全に八つ当たりだった。
俺が環生を拒んだ時の絶望した顔が脳裏に焼き付いて離れない。
昨日怖い目に遭ったばかりで弱ってる環生を、酷い言葉と態度で傷つけた。
俺は怒るばかりで冷静さを無くして、環生の気持ちに寄り添ってやれなかった。
せっかく環生の方から歩み寄ってくれたのに。
でも、昼間に散々他の男と好き勝手して心配をかけた環生。
そんな環生に一緒に寝ようって言われても、すぐに受け入れられなかった。
俺はそこまで人間が出来ていなかった。
少し前の環生は俺の事を一番気に入っていたはずなのに。
俺の部屋で眠る日が多かったのに。
何でも俺が最優先だったのに…。
結局、俺は環生を独り占めしたいんだ。
環生を恋人にする覚悟もないくせに。
はぁ…。
ったく、何やってんだよ俺は…。
泣きながらリビングを飛び出していった環生。
家を出ていった感じも、自分の部屋に戻った感じもないから、秀臣 の部屋にでも行ったんだろう。
秀臣の部屋でシクシク泣いて、これでもかってくらい甘やかされて眠ったんだろう。
環生の涙を拭うのは俺の役目だったのに。
俺が泣かせてどうするんだよ…。
ものすごい後悔と共に自分の部屋へ行ったら、ベッドに環生がいた。
俺の布団にくるまって、俺の枕を抱きしめて泣いていた。
「環生…」
「柊吾、待ってた…」
俺の名前を呼びながら抱きついてくる環生を夢中で抱きしめた。
傷つけた俺を健気に待っていた環生がいじらしくて愛おしくて…。
リビングを飛び出していった時、すぐに追いかけて抱きしめてやればよかった。
傷つけた事を謝ればよかった。
俺が来るまで真っ暗な部屋でひとりぼっち。
ベッドで泣いていた環生の気持ちを思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ごめんな、環生」
「うん…俺もごめんね、柊吾」
俺の背中に両手を添えてきゅっと体を寄せてくる。
甘えるような環生の仕草に、今までの胸のモヤモヤが晴れていくような気がした。
環生が俺を求めてくれたそれだけで。
単純すぎる自分に呆れた。
「今日…ここで寝てもいい?」
潤んだ瞳、不安そうな顔。
「あぁ。一緒に寝るか」
緊張で強張る背中を優しく撫でると、環生は嬉しそうに微笑んで俺の腕を引いた。
「…っ…、痛…」
体の痛みを堪えるような動きでベッドに入ろうとするから、背中に手を添えて手伝った。
ったく、どんなヤリ方したらこんなになるんだ…?
でも、環生は酷い事されたとも言ってなかったから、満足してるんだよな…。
昼間、環生がどんなセックスをしてきたのか気になって仕方ない。
「ありがとう、柊吾…。やっぱり柊吾の腕枕は落ち着く」
ぎこちない動きで俺の鎖骨あたりに顔を乗せると、頬ずりをして甘えるご機嫌な環生。
結局丸めこまれた気がして面白くない。
「俺はまだ怒ってるんだからな。こうやって可愛い事言って、うやむやにするんだろ」
「…柊吾の嘘つき。もう怒ってないでしょ」
余裕たっぷりで、全部お見通しだよ…と言わんばかりの態度。
「そ、そんな事ないぞ。ここ最近で一番怒ってるからな」
「そうなんだ…」
環生はふふっと笑うと、俺の唇にチュッとキスをしてきた。
「な、何するんだよ///」
「ん…仲直りのキス…的な?」
そう言いながらまた唇を寄せてくる。
そんな可愛い事されたら、どうやってもこれ以上怒れない。
環生の思うツボだ。
「…本当に怒ってる?」
「…クソッ!…っ、…怒ってないぞ」
「本当?…よかった」
安心したように、ほわほわと微笑むから、もう我慢できない。
環生の後頭部に手を添えて唇を重ねた。
本当は環生を抱きたい。
普段だったらこのまま環生の体に触れて、首筋にキスをして…。
でも今日はお預けだ。
環生は体が痛そうだし、昼も夜もセックスするのは辛いだろう。
かわりに手をぎゅっと握った。
察した様子の環生も、俺の手に華奢な指を絡めてきた。
「本当はね、後ろから抱きしめてもらおうと思ってた。昨日後ろから痴漢されて怖い思いをしたから、柊吾が抱きしめてくれたら怖くなくなるかな…って」
そんな大役を俺に任せるなんて、俺を信頼して頼りにしてるって事だよな…。
嬉しい気持ちがジワジワわいてきて、顔がニヤけそうになる。
「前からでも後ろからでもいい。環生の気が済むまでいくらでも抱きしめる」
「ん…でも、今日はもういいの。今日はいつもみたいに柊吾の顔を見ながら寝たい気分」
そう言うから、環生をいつものポジションにおさめた。
幸せそうな顔でウトウトし始めたから肩まで布団をかけて、背中のあたりをさすってやると、そのままスーッと眠りについた。
満足そうな穏やかな寝顔。
もっと早くこうしてやれば、環生は泣かずに済んだのに…。
「…ごめんな、環生…。優しくしてやれなくて…」
熟睡している環生の柔らかな前髪をすくうようにかき分けると、少し笑ったように見えた。
…もっと環生を大事にしよう。
俺の側にいてくれる環生を。
明日になったら、環生の望み通り後ろからたくさん抱きしめて、怖かった記憶を嬉しい記憶に塗り替えるんだ。
また、環生に笑って欲しいから…。
俺は環生を起こさないように気をつけながら、そっとおでこにキスをした。
ともだちにシェアしよう!