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第5章 第15話

「気持ちよかったよ、環生(たまき)。ありがとう」 俺の奥で果てた(ごう)さんは、俺をベッドに寝かせると頰を撫でてくれた。 「俺も…気持ちよかったです///」 そう伝えると、満足そうに微笑んだ豪さんは、チュッと唇にキスをして部屋を出て行ってしまった。 あれ…? どこ…行っちゃったんだろう…。 セックスした直後に無言でベッドに置き去りにされるのは初めてで、ちょっと驚いた。 いつもなら腕枕や添い寝をしてもらったり、体を拭いてもらったりして、まったりタイムを楽しんでる感じだから。 タオルでも取りに行ったのかな…。 豪さんを待ちながら1人で余韻に浸る。 初めての事ばかりで、刺激的な気持ちいいセックスだったな…。 駅弁、クセになっちゃったかも。 またして欲しいな…。 そんな事を思いながら待っていても豪さんは全然戻ってこない。 汗が引いて少し寒くなってきたし、ローションでベタベタするから、枕元に置かれたティッシュで体を拭いた。 さっきまで仲良くくっついてたから、ひとりぼっちは淋しい。 ベッドが広い…。 俺…1人で何してるんだろう…。 虚しさを感じながら着替えをしていたら、少しだけ泣けてしまった。 着替え終わってリビングに顔を出すと、お風呂上がりのサッパリした豪さんが姿を現した。 1人でシャワー浴びちゃったんだ…。 お風呂へ行くなら、ひと声かけて欲しかったな…。 「環生も入る?汗かいたでしょ」 そう言ってペットボトルのミネラルウォーターを手渡してくれる。 全く悪気のない感じだし、そういう人なのかな…。 さほど男性経験がある訳じゃないから、今までの人と、豪さんとどっちが普通なのかよくわからない。 豪さんがソファーに座ったから、俺も隣に座る。 でも、何かを話す訳でも手を握ってくれる訳でもない。 窓の外を見て心ここにあらずな感じだし、もう俺の存在は見えてないのかも…。 『くっついて甘えてもいいですか?』って聞こうかと思ったけど、俺は恋人じゃない。 甘える資格なんてないし、遊び相手にベタベタされても迷惑なだけかも。 『俺と』じゃなくて、ただセックスがしたかっただけなのかも知れない。 今日は最後までしたから、もう俺はお払い箱なのかな…。 酷い事されてるみたいだけど、豪さんは悪くない。 豪さんが事後はそっとしておいて欲しい派だって知らないまま体を繋げて、優しくしてくれるはずって勝手に期待した俺が悪い。 でも、悲しくてたまらなかった。 用事を思い出したから…と伝えて、家を出た。 外に出たら、堪えていた涙が溢れてきて思わずその場に座り込んだ。 最初から遊びだってわかってた。 俺もそのつもりだった。 体の相性はよかったけど、根本的な価値観がズレていた。 それがこんなにも悲しいなんて…。 俺の…バカ…。 しょんぼりしていると、エレベーターの方からカツ、カツ…と響いてくるハイヒールの音。 誰か来る…。 今、誰かに見られたらマズイ。 人の家の前で座り込んで泣いてるなんて、確実に不審者だ。 オロオロしていると、向こうからモデルさんみたいにスタイルのいい美女が歩いてきた。 今さら逃げる事もできなくて、その場でうつむいていると、女性は俺の正面で足を止めた。 「あなた…豪の家から出てきたの?」 俺は驚いて顔を上げた。 豪さんの知り合いなの…? もしかして、彼女さん?? どうしよう、豪さんとセックスした事がバレてしまったかも…。 うろたえていると、女性は俺のすぐ側にしゃがみ込んで涙を拭いてくれた。 バッグから取り出した淡いピンク色の花柄のハンカチで。 かすかに甘いコロンの香りがした。 「悪い事は言わないわ。豪に近づくのはやめた方がいい。遊びだと割り切れないなら傷つくだけよ…」 たしなめるような、諭すような…優しさや愛を感じるような言い方だった。 「こんな純粋そうなあなたにまで手を出すなんて…」 彼女は静かに怒っているように見えた。 「あの…あなたは…豪さんの恋人なんですか?」 「…違うわ。恋人だったらどんなに素敵かしらね」 彼女は淋しそうに笑うと、気をつけて帰るのよ…と告げて、慣れた様子で豪さんの家に入っていった。 俺は彼女が入っていった扉をぼんやりと眺めていた。 彼女は…豪さんのセフレさん? 今から豪さんとセックスするのかな…。 抱かれた後、彼女も俺みたいに寝室に放置されるのかな…。 見ず知らずのこんな俺にまで親切にしてくれる優しい人だから、大切にしてもらえるのかな…。 でも、心も満たされてるならあんな淋しそうな笑い方はしないはず…。 『遊びだと割り切れないなら傷つくだけよ』 俺にかけてくれた言葉だけど、彼女が彼女自身にも言い聞かせてる言葉なのかも知れない。 俺は胸がギュッとなった。 俺の事はどう扱ってくれてもいい。 でも豪さんを想う彼女だけは大切にして欲しい。 彼女が心から幸せを感じて笑って欲しい…。 勝手にそう思った。

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