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第5章 第16話side.麻斗
〜side.麻斗 〜
先日の痴漢騒ぎで情緒不安定になった環生 がようやく落ち着きを取り戻したある日のお昼過ぎ。
仕事のために身支度をしていると、出かけていた環生が、『タコ焼きパーティーしよう』と、大荷物を抱えて帰ってきた。
明らかにいつもと様子が違う。
やけに明るくてどこか痛々しい。
きっと何か辛い事があったんだろう。
「買い物して汗かいちゃったから、シャワー浴びてくるね」
食卓にタコ焼き器や材料を置いた環生は、作り笑いをしながらバスルームへ消えた。
嫌な予感がする。
店を副店長に託して今日は休みを取った。
直感的に今日、環生を放置してはいけない気がした。
4人で分担して準備をして、一緒に食卓を囲む。
環生と俺は焼き係。
秀臣 は環生が買ってきたサラダや惣菜を並べる係。
柊吾 は食器係だ。
『タコ3つ入れて当たりタコ焼きを作ろう』って、無理にはしゃぐから切ない気持ちになる。
辛い事があったって、俺たちを頼ればいいのに。
でも、素直な環生が言わないのは、環生なりに自分で乗り越えようと努力しているのかも知れない。
そうかと思えば、見栄えのいい焼き立てを一番に環生の取り皿に入れるだけで涙ぐむ。
『熱いから気をつけろよ』と柊吾が世話をやくと鼻水をすすり出す。
秀臣がお茶のおかわりを差し出すと、一気飲みをした後、冷ましてあったタコ焼きを3つも口に入れた。
『絶対何かあったよね…』
環生に気づかれないよう、2人に目配せをすると、2人ともうなずいた。
やけ食いでもするような無茶な食べ方。
秀臣が無言で『麻斗がいけ』ってアピールするから、柊吾を見ると『俺は嫌だ』とばかりに首を横に振って、俺の代わりに焼き係を始めた。
…ったく。
2人とも環生が心配で仕方ないくせに。
こういう場面になるとすぐ俺に丸投げをする。
たぶん父さんがいても同じ事をする。
本当、似た者同士なんだから。
「環生…。いくらお腹が空いてても、そんなに一気に口に入れたら詰まるよ」
さり気なく環生の隣に移動して声をかける。
瞳の涙の膜が厚くなった。
あぁ、もう決壊しそう…。
背中に手を添えると、つーっと涙が頰を伝った。
「あしゃとしゃん…」
タコ焼きを口いっぱいに詰めたまま話すから飲み込んでからでいいよ…と伝えて背中を撫でる。
環生はウンウンとうなずきながら泣きじゃくった。
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