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第5章 第17話side.麻斗
〜side.麻斗 〜
「環生 、何があったか話せそう?」
いつも以上に優しいトーンで声をかけた。
2人の様子を伺ったけど、秀臣 は環生の涙に動揺してるし、柊吾 は明らかに泣かせた相手に怒ってるから冷静に話をできそうなのは俺だけ。
結局、また声をかけるのは俺の係。
俺だって泣いてる環生を見るのは辛いし、どうやって声をかけようか悩むから、たまには誰かに代わって欲しいのに。
「…あのね、体も性格も合う男の人に出逢うのって難しいな…って思う出来事があったの…」
しょんぼりした様子で取り皿のタコ焼きをつつきながら環生がつぶやいた。
その一言で大体の事を察した俺たち。
体の相性はよかったけど、性格の合わない男に出会ってしまったのか。
それとも、性格は合ったけど壊滅的に体が合わない男か…。
どちらにしても、誰かに抱かれて泣くような思いをしてきたのは確かだ。
「お前…相手をよく知らないうちに『彼は優しくて素敵な人』とか勝手に思い込んで、すぐ体を許すからそうなるんだろ」
呆れた様子の柊吾。
柊吾、それを言いたい気持ちはよくわかる。
でも、今このタイミングでわざわざ傷口に塩を塗り込むような事言わなくてもいい。
環生は充分それを理解してるはずだから
…。
「柊吾のバカ!そんな事わかってるよ…!」
膨れっ面をしながら冷蔵庫からお気に入りのケーキ屋さんの箱を持ってきた環生。
中身は4〜5人前はありそうなホールのチョコレートケーキ。
ずっしり重そうだし、チョコクリームのデコレーションもすごい。
かなり甘そうだ。
俺たち用にはショートケーキがあったから、どうやらこれは独り占めする気らしい。
「このモヤモヤ、食べて全部忘れるんだ…!」
環生は切り分けもせず、フォークを使って豪快に食べ始めた。
みるみるうちにケーキは環生のお腹に消えていく。
普段そんなに量を食べる方ではないから、環生のお腹は心配だけど、これだけ食べられるなら安心だ。
お腹いっぱい食べて、ゆっくり眠ったらきっと元気になるはずだから。
「ごめんね…、バカなのは俺…」
皆ありがとう…と、ケーキを口に運びながら、本当に悲しそうにシクシク泣く環生。
「皆が優しくて、セックスも上手だから世の中の男の人皆そうだって…、それが普通だって勘違いしちゃって…。皆が特別なのにね…」
切ない横顔に胸が締めつけられて、思わず環生を抱き寄せた。
ここで甘やかしたら頑張って乗り越えようとしている環生の邪魔でしかないのに。
でも、甘えん坊の環生は俺を拒まない。嬉しそうに頬ずりしてくる環生はどうしようもなく可愛い。
「…俺の分もいいぞ」
誉められて上機嫌になった柊吾は、自分のケーキを差し出す。
環生は少し考えるようなそぶりをした後、俺の膝に座った。
俺にくっついたまま柊吾に向かって食べさせて…とばかりに口を開く。
頼られたり甘えられたりするのが好きな柊吾は文句を言いながらも、ニヤニヤしながらケーキを食べさせる。
秀臣はそんな俺たちをうらやましそうに見つめながら自分のケーキを持ってスタンバイをしている。
この家では環生は無敵だ。
皆、環生の笑顔のためなら何だってしてしまう。
口の端にクリームをつけながら美味しい…と微笑んでくれたらそれで充分。
俺たちはそれだけでこんなにも幸せなんだ…。
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