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第5章 第19話side.柊吾
〜side.柊吾 〜
『ヤラシイ顔で見た』『見ない』のしょうもない言い合いをしていたら少しずつ環生 が元気になってきた。
ヤケ食いや甘えるのもいいけど、声を出して内にたまった感情を吐き出すのも悪くない。
口数の少ない秀臣 や、優しい麻斗 ではケンカ相手はできない。
俺にも環生の特別になれる瞬間があって嬉しい。
風呂を出る頃にはある程度スッキリしたらしい環生。
『もう怒ってないから膝枕して…』って可愛いワガママを言うから、ソファーに座る。
環生は、録画しておいた映画を再生しながら俺の膝に頭を預ける。
いつもより温かい環生の体。
眠そうだからこのまま寝落ちするかも知れない。
頭を撫でたり、半乾きの髪を指に巻きつけて遊んだりしていると、二番風呂の秀臣が出てきて環生の足の方に座った。
「あ、秀臣さんだ」
一緒に映画見よ…と、甘えた声で誘いながら体の向きを変えた環生は、秀臣の膝に頭を乗せる。
懐かれて嬉しそうな秀臣は愛でるような手つきで髪を撫でる。
映画を見る気なんてこれっぽっちもないだろう。
俺の膝の上には環生の膝下だけ。
薄手のスウェットの上からでもわかる華奢な脚。
この脚を今日隣のアイツが好き放題触ったかと思うと胸がざわつく。
俺たちの大事な環生に…。
消毒するつもりで、ゆっくり脚に触れた。
「だめ、柊吾…」
「マッサージだよ、マッサージ。ヤラシくないやつだ」
…ったく、信用ないな。
そんなに俺、普段から環生にがっついてるのか…?
「エッチなのじゃないなら…」
お触り許可が出たから、ゆっくり触れる。
マッサージの知識はないけど、とりあえずつま先を包んで温めて、何となく揉みほぐしていく。
秀臣も環生の頭や肩のマッサージを始めると、環生は俺たちに体を丸投げしてくつろぎ始めた。
淋しいと遠慮がちに甘えてくる控えめな環生もいいけど、ここまで全力で甘えてくる環生も可愛い。
それぞれ担当箇所のマッサージに精を出していると、風呂を終えた麻斗もやってきた。
結局ソファーに麻斗、俺、秀臣の順に並んで座る。
環生が麻斗の膝に頭を乗せたから、自動的に俺は胴体、秀臣が膝下担当になる。
兄弟3人並んで座って、環生のマッサージをする異様な光景。
環生がいなかったら兄弟でここまで密着して座る事も、それぞれの仕事やプライベートの予定を把握する事もなかった。
泣いた環生をフォローするためにお互いの性格について考える事も『声かけ担当』『慰め担当』なんて役割分担をする事もなかったはずだ。
もちろん父さんと言葉を交わす事も。
環生は俺たち家族の潤滑剤だ。
「皆に全身揉みほぐしてもらえるなんて贅沢すぎ///」
気持ちいい…と、ますます環生の体の力が抜けていく。
麻斗のゆったりしたボトムの布をきゅっとつかんで、ふにゃりと笑う。
「俺…ずっと皆と一緒にいる。もう彼氏もセフレもいらない。皆といたら楽しいし、幸せだから…」
珍しく弱気な環生。
そうは言っても恋愛体質な環生が行動を改めるとは思えない。
明日目が覚めたら『体も性格も合う素敵な彼氏見つける』って張り切るに決まってる。
「いいよ、ずっと一緒にいよう。お爺さんになっても皆で仲良く暮らそう」
真っ先に返事をしたのは麻斗。
それを聞いた環生は、ほんの一瞬淋しそうな顔をした後、幸せそうに顔をほころばせた。
「秀臣さんは?」
「もちろんだ。環生の気が済むまでここにいればいい」
秀臣の答えにはちょっと悲しそうだ。
秀臣は環生を縛りつけたくなくて、そう言ったんだと思う。
麻斗の『いいよ』にも『環生が望むなら』っていう大前提の意味合いが含まれてる。
普段ならそれくらいの感じでいい。
でも、今日はそれでは足りない。
俺にはわかる。
今日の環生は面倒くさい日だ。
自分の意思は関係なしに、ただ俺たちに必要とされてる事を実感して安心したい日だ。
「柊吾はどう?」
柊吾なら俺の気持ちわかってくれるよね…と言いたげな期待を込めた眼差し。
「あぁ、俺たちにはお前が必要だ。環生がいない毎日なんて想像できない。環生が嫌だって思っても離さないからな。一生ここにいろよ」
俺だって無理強いするつもりはない。
環生が出て行くと決めたなら止めはしないだろう。
ちょっと強めの言葉で環生を求めると、瞳を潤ませた環生が起き上がって俺の膝にまたがった。
「ありがと、柊吾。例え本心じゃなくても、俺の一番欲しい言葉をくれて…」
ごめんね、面倒くさくて…と囁きながら俺の頰を小さな両手で包み込んだ環生はそっと唇を寄せてきた。
触れるだけのキスをした環生は、順番に秀臣と麻斗にも同じ事をしていく。
ご褒美のキスは、しょっぱいのにどこか甘い環生の涙の味がした…。
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