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第6章 第4話side.柊吾

〜side.柊吾(しゅうご)〜 突然の伯母さんの訃報。 遠方だから通夜と告別式に参列すると泊まりがけだ。 家には大体俺がいるから、環生(たまき)は1人で留守番をした事がない。 マンションはオートロックだし、戸締りさえしておけばセキュリティには問題ない。 大人だから留守番の一つや二つできるのはわかってる。 ただ、いつも俺たちの布団に潜り込んでくる淋しがりやで甘えん坊の環生が夜1人で眠れるかが心配だ。 淋しさのあまり、隣りの奴の家に行って何かしでかさないか気になって仕方ない。 出かける時も心細そうにしていた環生。 ベランダから淋しそうに手を振る環生を見て、本気で行くのを止めようかと思ったくらいだ。 でも、母さんが家を出てからは血も繋がってない俺たちを気づかってくれた優しい女性。 最期のお別れはきちんとしたいと思った。 無事に通夜と食事を終えてホテルへ戻る。 今は9時半を過ぎたところ。 きっと父さんと麻斗(あさと)、秀臣(ひでおみ)と俺っていう部屋割りだと思っていたら、伯父さんがシングルの部屋を予約してくれていた。 1秒でも早く環生の声が聞きたくて、部屋のドアを閉めると同時に電話をかける。 自分でもどうしてこんなに環生に執着するのかわからない。 恋愛感情なのか、家族愛に近いのか…。 それとも年上のくせに危なっかしい環生の世話を焼いて、自分の存在に価値を見出してるのか…。 上着をハンガーにかけていると、環生が出た。 『柊吾…』 電話越しに聞こえる環生(たまき)の驚きと甘さの混じった声。 微かに布団にくるまる音がする。 「悪い、寝てたか」 ネクタイをほどきながら冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。 『ううん、起きてたよ。こんばんは』 「あぁ、こんばんは。…って、何か変な感じだな。一緒に住んでるからこんばんはなんて言った事ないもんな」 『でしょ?ちょっと言ってみたくなっちゃった』 電話の向こうから聞こえる笑い声。 思ったより元気そうだ。 いや、カラ元気か…。 「そっちはどうだ」 『うん、それなりにやってるよ。俺の事より柊吾は?伯母さんにお別れできた?』 「あぁ…。こっちも問題ない。父さんにも会った」 『そう…よかった。秀臣さんと麻斗さんはどうしてる?』 自分の事より俺たちの事ばかり。 環生はいつもそうだ。 本当は淋しくて仕方ないくせに。 時間を持て余して、こんな時間から布団に潜ってるくせに。 「環生、今ホテルで1人だ。周りには誰もいない」 『……』 環生は黙って何かを考えているようだ。 物理的な距離がもどかしい。 目の前にいたら、すぐに抱きしめてやれるのに。 『それって…甘えていいって事?』 「そうだ」 『…嬉しい。本当はね、すごく淋しかった…』 嬉しそうな環生の声。 『柊吾…ぎゅってして…』 急に甘えた声で俺の名前を呼ぶから、チュ…と、リップ音を立てた。 環生のおでこに唇を寄せたつもりだ。 『ん…もっと…』 可愛い声で続きをねだるからチュ、チュ…と繰り返す。 頬を染める環生を脳内再生していると、だんだん俺もその気になってくる。 『環生…』 腕枕をしてる時みたいに、なるべく甘くて優しい声で名前を呼んだ。 秀臣たちの前では何となく照れくさいから、2人きりの時限定の声だ。 『柊吾…会いたいよ…』 涙混じりの環生の切ない『会いたい』に胸が熱くなった。 俺も環生に会いたい。 抱きしめてキスをしたい。 一つ屋根の下で暮らして、会いたいなんて思う前に顔を合わせている俺たち。 離れてみて、それがどんなに恵まれた事なのかを思い知った。 距離は縮まらないけど、心の距離だけは近づきたかった。 「今、会ってるだろ…」 『そっか、そうだね…』 今、柊吾の腕の中だった…と、環生が笑う。 『…柊吾が電話をくれる前にね、淋しいから皆の枕を借りてきてにおいを嗅いでたんだ…』 何だよ、それ…。 俺たちのにおいを嗅いで淋しさを紛らわせてる環生が無性に愛おしかった。 「俺だと思って枕に抱きついてもいいぞ」 『もう…してるよ…』 キスもしちゃった…///と、恥ずかしそうに伝えてくる環生の可愛らしさ。 どんな表情で、どんな仕草でこんな可愛い事言ってるんだ…! その姿を見たくてたまらない。 可愛い環生を独り占めをしたい。 環生を抱きたくて我慢できそうにない。 『柊吾…?ごめんね、嫌だった…?』 不安そうな環生の声。 俺が何も反応しないから様子を伺っているらしい。 「あぁ、悪い。環生が可愛いと思ってたら言葉が出なかった」 『何それ、恥ずかしいよ///』 クスクスと環生が笑う。 「なぁ、環生」 『ん…なぁに?』 「今すぐ環生を抱きたい」 『……っ///』 心からそう思った俺は、電話の向こうの環生にそう囁いた…。

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