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第6章 第9話

食事の後はささっと食器を洗って、今から秀臣(ひでおみ)さんとお風呂タイム。 皆はそれぞれお酒を飲んだり、荷ほどきをしたり。 「秀臣さん、お風呂行こう」 2人分の着替えを抱えながら声を掛けると、秀臣さんはいつもよりソワソワした様子。 あれ?もしかして…。 「秀臣さん…照れてるの?」 わざと近づいて顔をのぞき込むと、すぐに目をそらされる。 着替えを手伝ってもらったり、セックスしたりしてるから俺の裸なんて見慣れてるはずなのに…。 「秀臣さん、どうかした?」 理由を聞いても何も言ってくれない。 一瞬、秀臣さんが様子を伺うように見た先には、誠史(せいじ)さんの姿。 わかった、誠史さんの目を気にしてるんだ。 俺と2人でお風呂へ向かうのを見られるのが嫌なのかも。 エッチな事をするだろうって思われるのが恥ずかしいのかも。 俺も実家で誰かとお風呂に入るってなったら、何となく気まずいって思うはず。 「秀臣さん、早く早く」 俺は秀臣さんを急かすように手を引いてお風呂へ向かう。 俺が秀臣さんとお風呂に入りたくて仕方ない感を出して、秀臣さんを連れ出した。 「環生(たまき)、すまない」 脱衣所に鍵をかけて2人きりになると、秀臣さんが申し訳なさそうにつぶやいた。 「いいよ。俺も早く2人きりになりたかったし」 着替えを棚に置いていると、後ろからぎゅっと抱きしめられた。 「環生…ありがとう。会いたかった」 いつもより俺を抱く腕に力がこもってる。 お好み焼きとビールと、秀臣さんのにおい。 「俺も会いたかった…」 秀臣さんの腕の中で向きを変えて、俺からも抱きついた。 どちらからともなく唇を重ねて微笑み合う。 それだけで幸せ。 ひとりぼっちじゃないって安心できる。 「秀臣さん、今日はこのボディシャンプー使おう。いい香りがするからお気に入りなの」 ちょっと高級だから普段使いはできないボディシャンプー。 グリーン系の爽やかな香りだけど、ちょっと甘さも入った俺のお気に入り。 泡も柔らかくて気持ちいいし、肌もすべすべになる。 秀臣さんとコミュニケーション取るにはちょうどいいアイテム。 いつもはボディタオルを使うけど、今日は素手で。 秀臣さんを洗ってあげたい。 少しでもいいから秀臣さんに触れたい。 マットであぐらをかいている秀臣さん。 俺は対面座位をするみたいに膝に乗って、きゅっと体を寄せる。 お風呂では2人きりだから、誰の目も気にせず思いっ切り甘えられるのが嬉しい。 こうやって温もりを感じていたい。 「…誘ってるのか、環生」 「うーん…。したいのかしたくないかよくわからなくて…。でも、秀臣さんにくっつきたい」 エッチな気分にならない訳じゃないけど、しなくても大丈夫かも。 ただ今は1人じゃないって思いたい。 同じ時間と温もりを共有したい。 「秀臣さんは…したい?」 「俺も何とも言えない。どちらでもかまわない」 「今日は2人ともそんな気分なんだね」 ふふっと微笑み合ってまたくっつく。 お互いの体を洗ったり、一緒に湯船に入ったり…。 短い間だったけど、俺たちは2人だけの時間を楽しんだ。

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