152 / 420
第6章 第13話
次の日の朝の事。
目を覚ましたら俺を見つめてる麻斗 さんと目が合った。
「おはよう、環生 」
「お、おはよう。麻斗さん」
いつから見てたんだろう。
ヨダレ垂らしてなかったかな…。
普段から寝顔も寝起きの顔も晒してるはずだけど、ちょっと恥ずかしい。
「大丈夫。ヨダレ垂らしてても環生は可愛いから」
「えっ、垂らしてた…?」
慌てて口元を拭うと、麻斗さんがクスッと笑う。
「嘘だよ。幸せそうな寝顔だったよ」
キスしたくなるくらいに…と、おでこにチュッとキスされる。
このままもうちょっとだけ麻斗さんの腕の中でゆっくりしようと思ってたら、リビングが何だか騒がしい。
2人で顔を出すと、そこには仕事の電話をしながら荷造りをする誠史 さん。
訃報で予定より早く帰国したから、まだ仕事が残っていたらしい。
今日の飛行機で帰国するって言い出した。
大忙しの誠史さん。
今回は抱いてもらえなかったな…って淋しい気持ちになるけど、仕事だから仕方ない。
荷物があるから秀臣 さんが車で送るって言ったけど、誠史さんは俺とデートするから…と、断ってしまった。
急きょ空港まで行く事になった俺。
皆で朝ご飯を食べて、大急ぎで身支度をして、2人で空港行きのバスに乗った。
「悪いなぁ、環生。無理矢理連れ出して」
「ううん、大丈夫です。急展開すぎてちょっと驚いただけ…。それより、車じゃなくてよかったんですか?」
「秀臣がいたらデートの邪魔だろう?」
そっか…そういう事ね…。
だから一番後ろの、誰かの目につきづらそうな席なんだ…。
「バスなら移動中もずっと手を繋いでいられる。環生の手の温もりを感じていたいんだ」
誠史さんは俺を喜ばせるのが上手。
でも、俺はそれだけじゃないって気づいてる。
だって昨日の膝枕の時より、少し甘えたそうな素振り。
2人きりの時限定の誠史さん。
お兄さんの奥さんが亡くなった事…やっぱりショックなのかな。
存在もそうだけど、同世代の人が亡くなった事も悲しいのかも知れない。
きっと皆の前では平静を装ってたんだろうな…。
きゅっと誠史さんの手を握ると、誠史さんと目が合った。
『俺、ここにいるよ』って気持ちを込めてうなずくと、誠史さんの表情が柔らかくなる。
俺が側にいる事で誠史さんの淋しさが少しでも和らいだらいいな…。
俺も誠史さんの側にいられて嬉しいし…。
「…せっかく帰国したんだ。一度くらい環生を抱きたかったなぁ」
しばらく黙ったままだった誠史さんがポツリとつぶやいた。
誠史さんの切ない声に胸がトクン…と音を立てる。
俺だって誠史さんに抱かれたかった。
ずっとずっと誠史さんの帰国を楽しみにしてたから。
「俺も…本当はもっと一緒にいたかったです…」
急に淋しくなって涙がこみ上げてきた。
まだ空港へ向かう途中なのに。
空港に行ったら号泣してしまいそう。
「…なぁ、環生。…帰るのは明日だって言ったら、環生は喜んでくれるかい?」
えぇっ、何それ!?
またしても急展開すぎて慌ててしまう。
「で、でも…飛行機が…」
含み笑いをしながら誠史さんが差し出したスマホ。
老眼だから俺のより文字が大きめなのが可愛い。
飛行機の予約画面を見ると、日にちは明日になっていた。
「環生と一泊する気で、空港のホテルを予約してるって言ったら喜んでくれるかい?」
誠史さんからのサプライズプレゼント。
出会ってからもう何回も驚かされたはずなのに、いつもその記録を更新してくるから何度でも驚いてしまう。
「嬉しい…誠史さん」
大喜びです…と、誠史さんに抱きついた。
誠史さんとお泊まりできるなんて夢みたい。
ずっと一緒にいられるなんて幸せ。
嬉し涙を流す俺を抱き止めながら、誠史さんは優しくその背中を撫でてくれた。
ともだちにシェアしよう!