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第6章 第19話
『環生 、元気でな』
『待って、誠史 さん。どこへ行くの?』
誠史さんは何も答えてくれないまま、俺に背を向けて歩き出す。
『誠史さん…!』
必死に追いかけてすがりついたら、誠史さんは信じられないほど冷たい瞳で俺を見ていた。
驚いて手を離すと、誠史さんはまた先へ行く。
嫌だ、行かないで誠史さん。
俺を置いて行かないで…!
「誠史さん!」
自分の声の大きさに驚いて目を覚ました。
体を起こして辺りを見回すとそこは誠史さんが予約してくれたホテルの一室。
ふかふかベッドの上だった。
そうだ、俺…誠史さんとセックスしてそのまま眠っちゃったんだ。
…って事は、今のは全部夢…?
「どうした、環生。大丈夫か」
隣にいてくれた誠史さんの心配そうな声。
「誠史さん…」
誠史さんの姿と優しい瞳に安心した俺は、ぎゅっと誠史さんに抱きついた。
「悲しい夢を見たんです…。誠史さんが離れていっちゃう夢…」
「…大丈夫だ、ちゃんと環生の側にいるだろう?」
誠史さんが背中をさすりながら抱きしめてくれる。
誠史さんに抱かれて幸せなはずなのに、どうしてあんな夢を見たんだろう。
明日誠史さんが帰国してしまうのが淋しくて、その事ばかり考えてたから、そんな夢を見たのかな…。
「誠史さん、俺を置いて行かないで…」
急にそんな事を言ったから驚かせてしまったみたい。
少し間があったけど、いつもみたいに微笑んでくれた。
「……ああ、行かないよ。心配しなくていい」
そう囁いた誠史さんは、俺が落ち着くまでずっと抱きしめていてくれた。
…どれくらい時間がたっただろう。
誠史さんが側にいてくれる事がわかって安心したら、今度はお腹がぐーっと鳴った。
「環生は泣いたり、お腹が減ったり忙しいなぁ」
誠史さんは笑いながらルームサービスをお願いしてくれた。
しばらくして運ばれてきたのは、豪華な中華のコース。
サンドイッチくらいの軽食のつもりでいたけど、誠史さんがせっかく来たんだから…と言ってくれた。
熱々の小籠包も、プリプリのエビチリも、パラパラチャーハンも美味しくてほっぺが落ちそう。
誠史さんは俺が食べる姿を嬉しそうに…でも、時々切ない表情を浮かべて見守ってくれた。
「美味しかったです。ごちそうさまでした」
誠史さんの分の杏仁豆腐まで平らげたから、もうお腹いっぱいで動けない。
ソファーでくつろいでいたら、誠史さんも隣に来てくれた。
でも、少しだけ離れて。
いつもなら俺を膝に乗せて抱きしめてくれるのに。
目が覚めてから何となく感じていた違和感。
気のせいかな…って思ってたけど、やっぱり誠史さんの様子が違う。
どことなく俺を避けている感じ。
何かあったのかな…。
淫らすぎる俺に引いちゃったのかな。
体がよくなかった…?
それとも何か誠史さんの嫌がる事をしちゃったのかな…。
セックスの後、すぐに寝ちゃったから…?
誠史さんの杏仁豆腐食べちゃったから…?
あれこれ考えていたら、思い当たる節がありすぎて悲しい気持ちになってきた。
「誠史さん…、くっついてもいいですか?」
「もちろんいいとも。おいで」
淋しそうな困った表情。
いつもなら可愛いなぁって抱きしめてくれるのに。
胸がギュッと苦しくなったけど、平静を装っていつものお姫様抱っこポジションにおさまった。
「誠史さん…、聞いてもいいですか?」
「ん?何だい?」
緊張で胸のドキドキが止まらない。
夢の時みたいにあんなに冷たい態度を取られたらどうしよう…。
怖くて手も震えてる気がする。
「あの…俺…、何か嫌われるような事…しちゃったのかな…と思って…」
俺がつぶやくと、ハッとした表情をする誠史さん。
あぁ、やっぱり何かしちゃったんだ…。
それだけで申し訳ない気持ちになって涙が滲んでくる。
「違うんだ、環生。環生は何も悪くない」
「悪くないならどうして…?2人でいるのに…こんなの…淋しいです」
堪えきれなかった涙が頬を伝う。
誠史さんはそっと指先で俺の涙を拭うと、息ができなくなるくらいきつく俺を抱きしめてくれた。
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