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第7章 第1話
「柊吾 、朝だよ。起きてー」
いつもの朝。
今朝は珍しく寝坊した柊吾に、部屋の外から声をかける。
誠史 さんが帰国したばかりのうちは淋しかったけど、普段の4人の生活も楽しくてあっという間に毎日が過ぎていった。
もうすぐ俺の誕生日。
そういえば皆の誕生日はいつなんだろう。
朝ご飯の時間に3人に聞いてみたら、皆12月なんだって。
4人とも誕生日だし、クリスマスも近いから、週末に合同パーティーをする事になった。
1人ずつプレゼント交換をしたらプレゼントだらけになってしまうから、1人3,000円の予算でプレゼントを準備して、トランプで勝った人から好きな包みを選ぶゲームスタイルにした。
仕事がお休みの麻斗 さんとデートを兼ねて街でプレゼント探し。
気になってたケーキ屋さんでケーキの予約もした。
それぞれプレゼントを買っておやつタイム。
麻斗さんオススメのカフェへやってきた。
ここのアップルパイが美味しいんだって。
セルフサービスのお店だから、麻斗さんがオーダー係で、俺は荷物番兼席取り係。
街もお店もクリスマスのディスプレイで華やかな雰囲気。
楽しい気持ちで窓の外を眺めていたら、ふと視線を感じた。
誰だろう…と思って視線をうつすと、隣の席には大学のテニスサークルで一緒だった同級生の佑太 が座っていた。
就職して大阪へ行ってしまったから、卒業以来会ってなかった。
「久しぶり。佑太、元気にしてた?」
佑太も俺と同じ男の人が恋愛対象。
好みのタイプも似ていて、好きになる人が同じだった。
似ていたのは好みだけじゃない。
背格好や顔立ちも何となく似ていた。
でも、佑太はどこか華があって人懐っこくて、いつも皆の真ん中にいた。
皆佑太が好きになった。
俺が想いを寄せていた先輩も…。
「やっぱり環生 だ。懐かしいな。誰かと来てるの?」
「あ…うん…。あそこの背の高い白いニットを着てる人」
「へぇ…。相変わらずああいうタイプが好きなんだ」
そう言ってじっと麻斗さんを見てる。
麻斗さんを俺の恋人だと勘違いしてるのかも。
「佑太は?」
「俺はあの子。あそこの黒いパーカー着た小っこいの」
佑太が示したのは、一瞬女の子かと思うくらい小さくて可愛らしい男の子だった。
「名前は星那 。最近付き合い始めたんだ」
「えっ、佑太…。いつから好みのタイプ変わったの?」
あまりの方向転換に驚いて思わず聞いてしまった。
だって当時の佑太は俺と同じで、背が高くて優しくて年上の男の人が好きだったから。
人を外見だけで判断したらいけないのはわかってるけど、昔の佑太を知る俺には衝撃的だった。
だって昔は、佑太があの子のポジションにいたから。
「あぁ、価値観が変わったのは星那と出逢ってからかな。俺の事を好き好き言って子供みたいに甘えてくるから可愛くて」
「そうなんだ…。よかったね、素敵な人と出逢えて」
昔は同じ人を好きになって、失恋して、佑太の恋をお祝いできない事もあったけど、今は純粋に佑太の幸せを願った。
でも、ふとした疑問が一つ。
どっちが抱いてるんだろう…。
佑太はずっと抱かれる側だった。
…って事は、星那さんが佑太を抱いてるの…?
それとも…佑太が星那さんを抱いてるの…かな。
聞いてみたいけど、さすがに失礼だよね…と思って自粛する。
「星那はさ、ベッドだとさらに可愛いんだ。おねだりされたら一晩中でも抱ける」
「えっ、あ…そうなんだ…」
いきなりの桃色話にドキドキしてしまう。
星那さんに無断でそんな事話していいのかな…。
それとも、久しぶりに再会した俺にまで話したくなっちゃうほど好きで好きでたまらないのかな。
まぁ、俺も疑問が解消されたから結果オーライだけど。
「環生は相変わらず童貞?」
「う、うん…。俺、抱かれるのが好きだし、それが俺の自然だから、誰かを抱きたいとも思わないし…」
「俺もそう思ってた。でも、アイツが俺に抱いて欲しいって涙目で訴えてきて…。無理だろ…って思いながら事に及んだら、抱けたんだよ」
…そんな事あるんだ…。
好きな気持ちが佑太を変えた?
それとも、眠っていたものが開花した?
俺も…そんなシチュエーションになったら誰かを抱きたいとか思うのかな。
全然想像できないけど。
「佑太、お待たせ。…その人誰?」
トレーに2人分のドリンクを乗せた星那さんがやってきた。
近くで見たら10代後半くらいにも見える。
お肌がツヤツヤでもちもち。
若いってすごい。
ちょっと膨れっ面をしてヤキモチをやいてるみたい。
可愛いなぁ。
「大学の時の連れだよ。環生」
「こんにちは、相川 環生です」
「こんにちは。佑太の恋人の星那です」
聞いてもないのに、しっかり恋人アピールしてくるあたり、可愛くて仕方ない。
本当に佑太の事、大好きなんだろうな…。
きっと2人でカフェを楽しみたいだろうから、お邪魔しないようにしよう。
少したってから合流した麻斗さんに2人を紹介して、少し会話をした。
その後はあっという間に恋人2人の世界。
たぶん俺たちの事は見えてないんだろうな…ってくらい、見つめ合ったり手を握ったり。
『あーん』からの『クリームついてる』の流れなんて、こっちが照れてしまうくらい。
気まずすぎて美味しいはずのアップルパイの味なんてよくわからなかった。
若いってすごいな…って、何度めかの感想を抱きながらカフェ・オ・レを飲んだ。
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