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第7章 第2話
「柊吾 …。俺の事…本当に可愛いと思う?」
「何だよ、急に」
ここは柊吾のベッド。
今夜は柊吾と一緒に眠る。
俺の隣で雑誌を見ている柊吾に声をかけると、不思議そうな顔をした。
「あのね…、柊吾は可愛いって言ってくれるけど本当なのかな?って…。俺が喜ぶからさほど可愛くなくてもそう言ってくれるのかな…って」
だって可愛いのは今日会った佑太 の恋人。
佑太も可愛い系だと思ってたけど、恋人の星那 さんはもっと小動物系で可愛かった。
この家では一応可愛い担当の俺が思うくらいだから、絶対可愛い。
柊吾だってあの子を見たらそう思うに決まってる。
でもそんな事、口数の少ない秀臣 さんに聞いたら戸惑ってしまうはず。
麻斗 さんは柔らかく微笑んで可愛いよって言ってくれる。
例え本心じゃなくても。
だから柊吾に聞いた。
柊吾ならハッキリ言ってくれるって思ったから。
「俺…皆に可愛い可愛いって言われて勘違いしてた。今日、気づいたんだ。世の中にはもっと可愛い子がたくさんいるって…」
「別に世の中に可愛い奴がたくさんいたって環生 は環生だ。関係ないだろ?」
柊吾の言ってる事はごもっとも。
だけど、それは今の俺が求めてる答えじゃなかった。
「そういう問題じゃないの。ねぇ、点数で言ったらどれくらい可愛いと思う?」
「何だよ、それ。外見に点数つける意味あるのかよ」
「意味ないってわかってる。でも聞きたい。世の中的にどうなのか正直に教えて」
俺のしつこさにちょっと呆れた様子の柊吾。
じっと俺の顔を見た後、ポツリとつぶやいた。
「まぁ…確かに環生はパッと見で目を引くほどの可愛いさか…って言うと、ちょっと違うから…世の中的には100点ではないな」
そっか…。
やっぱりそうだよね…。
わかってた事だし、そう言われたかったけど、言葉にされるとちょっと悲しかった。
今日の俺の相手、絶対面倒くさい。
「でも、くるくる変わる表情も、笑うと細くなる目も、甘える時に擦りつけてくる鼻も、甘い物を食べてる時の口も俺にとっては可愛い。俺は今のままの環生の外見が可愛いと思うから、俺的には100点だ」
真っ直ぐな柊吾の眼差し。
お世辞じゃなく本気でそう思ってくれてるのが伝わってくる。
「まぁ、中身も可愛いからプラス100点で、エロいからおまけにもう100点だな」
そう言って柊吾は爽やかに笑う。
サラッとそんな事言えちゃう柊吾ってすごい。
世の中の人皆が柊吾にときめいて恋しちゃう。
「あ、ありがとう…」
誉められすぎて何だか恥ずかしい。
頬が熱い気がする。
世の中的には100点ではないけど、柊吾の中でなかなかの高得点を記録してるのがわかったから、それでいいやって気持ちになった。
「…ったく、こんな事言わせるなよ。恥ずかしいだろ!」
柊吾も真っ赤になっていた。
自然に飛び出した言葉だと思ってたけど、俺のために頑張ってくれてたんだ…。
「ありがとう。柊吾も全部100点だよ」
「何だよ、それ。ざっくり評価だな」
「だって…こんな素敵な人…見た事ない」
外見はもちろん、俺の訳のわからない無茶ぶりにも付き合ってくれるくらい優しいし。
俺の事大切に思ってくれてるし。
無職なのと、絶倫すぎてセックスが長いのが玉にキズだけど、ずっと淋しがりやの俺の側にいて話し相手になってくれるし、エッチな俺の性欲をとことん満たしてくれるから、それはむしろプラス要素。
俺が誉めると、柊吾は照れくさそうに笑った。
「ねぇ、柊吾。もう1個聞いていい?」
「ん、何だ?」
「俺が『柊吾を抱いてみたい』って言ったら抱かせてくれる?」
驚きを隠せない様子の柊吾をじっと見つめる。
「…うーん…」
柊吾は本気で悩み始めてしまった。
それもそのはず。
俺は今、柊吾に無理をさせようとしてるから。
柊吾の中の『自然』をねじ曲げようとしてるから。
「悪いな。…いくら環生の頼みでも最後までは無理だ。でも、バックで素股だったら付き合ってもいいぞ」
「えっ、いいの?」
「まぁ、環生が俺の体に擦りつけてオナニーするようなもんだからな…。それで雰囲気くらいは味わえるだろ」
「う、うん…」
断られると思ってたから驚いた。
まさか落とし所を探ってくれてたなんて。
柊吾は優しい。
いつも俺の事を考えてくれる。
でも、話の流れと興味本位で聞いただけで、本当はそんな事したい訳じゃない。
俺は柊吾に抱かれるのが好きだし、柊吾も俺を抱くのが好きだから。
「今日…何かあったのか?」
「えっ…?」
「帰ってきてからずっと変だ。誰かに何か言われたのか?」
俺の事ばかり気にしてくれる柊吾には全部お見通し。
「ううん、何も。ただ…俺、一生童貞なのかなって…思っただけ」
「童貞だと嫌なのか?」
「そういう訳じゃないよ…。でも、ちょっと興味がわいただけ。ごめんね、変な事言い出して」
そう伝えて柊吾に体を寄せる。
柊吾に甘えて忘れようと思った。
柊吾が可愛いって言ってくれれば、それで幸せなはずなのに、俺は何がしたいんだろう。
何を求めてるんだろう。
「いつもの環生も可愛いけど、自分より可愛い奴に会って自信なくした環生も可愛いな」
柊吾はいつものように腕枕をしてくれながら、俺の鼻をつまんだ。
「や、やめてよ。柊吾…」
皆にちょっと可愛いって言われたぐらいでその気になって、可愛い子と自分を比べて勝手に落ち込んでたのかと思うと恥ずかしい。
どれだけ自意識過剰で自惚れ屋なんだか…。
でも、そんな厄介な事を感じてるそのままの俺も可愛いって言ってくれて嬉しかった。
いい子でない自分も認めてもらえてるような気がして、心が軽くなった。
「環生は可愛い。世の中の誰よりも」
そう言って鼻の先にキスをしてくれる。
その唇がすごく優しい。
「ありがとう、柊吾。ねぇ、もっと可愛いって言ってキスして」
「何だよ、欲しがりだな…」
「いいの。柊吾の『可愛い』が聞きたい」
柊吾はちょっと笑うと、可愛いって囁いたり、頭を撫でたりしながら温かいキスをしてくれた。
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