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第7章 第3話
そんなこんなで誕生日会&クリスマス会当日。
浮かれ気分で毎日準備を進める俺を見た秀臣 さんが4人お揃いのサンタ帽子を作ってくれたから、それをかぶって参加する。
秀臣さんと麻斗 さんは予約したケーキの受け取りと、シャンパンやオードブルの買い出し係、柊吾(しゅうご)と俺は料理係。
『チキンは買ったのより環生 のから揚げがいい』って柊吾が言うから、張り切って揚げる。
ご機嫌でキッチンに立っていると、柊吾が隣にやってきた。
「環生、食器並べたぞ。他にやる事あるか」
「あ、柊吾。いいところに。から揚げ食べてみて」
せっかくだから揚げ立ての一番美味しいのを柊吾に食べて欲しい。
一口で食べられそうな小さめを選んで、フーフーする。
熱いから火傷をしないように…。
「はい、あーん」
「お、おう…」
俺がから揚げを差し出すと、柊吾が頬を染めた。
えっ、どうしてそんな反応するの…?
いつも皆といる時の『あーん』はそんな照れくさそうな顔しないのに…。
「お、美味しい…?」
柊吾がそんな顔するから、俺まで恥ずかしくなる。
家族や友達にしてるような感覚だったけど、確かにやってる事は恋人同士っぽい。
カフェで会った時の佑太 たちみたい…。
そう思ったら変に意識してしまって胸がドキドキし始めた。
「やっぱり環生のから揚げ美味いな」
柊吾の子供みたいな無邪気な笑顔。
俺の動揺に気づいてないみたいだし、美味しいならよかった。
「環生も食べてみろよ」
「うん…」
衣がはがれかけた一番見た目の悪そうなから揚げをかじる。
外はカリカリ、中はジューシーに揚がっていて大満足。
「美味しい。いい感じ」
「な、美味いな」
そう言いながらもう一つずつ。
「つまみ食いするおかずって、テーブルに並んでるのより美味い気がするの何でだろうな」
「わかる。出来立てだし、皆より先に食べられる特別感がいいよね」
同じような感覚に嬉しくなる。
まだ子供の頃、キッチンから漂ういいにおいやトントンとかグツグツ…っていう美味しい音につられて、よくのぞきに行った。
晩ご飯の時間まで我慢できなくて、母さんにこっそりおかずを食べさせてもらったっけ。
『父さんには内緒よ』って。
特別なおかずの味も、母さんと2人だけの秘密があるのも嬉しくて、あの時間が大好きだった。
柊吾も同じだったのかな…。
「懐かしいな…。クリスマスに揚げ立てのから揚げ食べるのなんて子供の時ぶりだ」
その言葉を聞いてハッとした。
まだお母さんが家にいた頃、クリスマスにから揚げを作ってくれたのかな…。
幼かった柊吾はお母さんと一緒に秘密のから揚げをつまみ食いしたのかな。
楽しいひと時を過ごしたのかな。
きっとクリスマスのから揚げは、柊吾の特別な思い出なんだ…。
「俺でよかったら、これからもクリスマスにから揚げ作るよ」
そう伝えると、柊吾にぎゅっと抱きしめられた。
愛おしそうに後頭部を撫でられる。
手のひらの温もりも、俺が作る料理を喜んでくれる柊吾の存在も全部が嬉しい。
俺も柊吾の背中に手を添えて体を寄せた。
また新しいクリスマスの思い出を作ろう。
俺、柊吾のためにたくさん作るから。
秀臣さんや麻斗さんと一緒に楽しくて幸せな思い出を…。
「ありがとな、環生…」
「うん…。俺もありがとう」
俺たちはそのまましばらく抱きしめ合って過ごした。
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