170 / 420

第7章 第9話

誕生日会の後はあっという間だった。 大掃除をしたり、お正月の準備をしたり。 バタバタしているうちにあっという間に大晦日。 バーを経営してる麻斗(あさと)さんはお仕事。 秀臣(ひでおみ)さんは仕事の関係者と温泉で泊まりがけの新年会。 誠史(せいじ)さんも帰ってこない。 柊吾(しゅうご)がひとりぼっちになってしまうから、実家へは帰らなかった。 2人きりの年越し。 早めにお風呂に入って歌番組を見ながら、ミカンや年越しそばを食べてのんびり過ごす。 まったりした雰囲気で居心地がいい。 実家にいる時みたいにリラックスできる。 まだ22時を過ぎたところなのにお風呂で温まって、お腹もいっぱいだから眠くなってきた。 でも、何となく年を越す瞬間は起きていたくて、眠い目をこすりながら頑張る。 「…何か眠くなってきたな」 隣にいる柊吾が、ふわぁ…とあくびをする。 「ベッド行くか。部屋でテレビ見ればいいだろ」 「うん、そうだね…」 ベッドであったかい柊吾にくっついたら、すぐにでも眠ってしまいそう。 やっぱりもう寝ちゃってもいいかな…なんて思いながら、柊吾の部屋へ。 テレビをつけてさっきの歌番組の続きを見ながらいつものように腕枕をしてもらう。 今年は本当に色んな事があった。 同棲してた恋人にフラれて、大物家電が壊れて…お金欲しさに住み込み家政夫の仕事を始めた。 この家で柊吾や秀臣さん、麻斗さん、誠史(せいじ)さんに出会った。 皆はいつも優しく接してくれた。 俺以上に俺を大切に扱ってくれたし、俺の事を必要としてくれた。 俺でも誰かの力になれるって自信がついて、自分の事が好きになった。 俺も皆のために何ができるかを考えるようになった。 毎日優しい気持ちで過ごせるようになった。 皆の事もたくさん知って、心の距離が近づいた。 複数でセックスをする事も、お互いを思いやりながら肌を重ねる事の悦びも知った。 仕事も辞めて家政夫が本業になった。 引っ越しもした。 片想いをしていた同期の(さとる)と再会して、告白されたけど、俺は皆と暮らす事を選んだ。 同意の上で隣に住む(ごう)さんに抱かれたけど、価値観が合わなくて…セックスは相手をよく知ってからしようって学んだ。 生活や人間関係、価値観は一変したけど、毎日が楽しい。 俺はこの家で、かけがえのないものをたくさんプレゼントしてもらったから。 いつかは誰かに好きな人ができて、今のままではいられない日がやってくるけど、その日がくるまではずっと一緒にいたい。 俺は皆と暮らすこの家が大好きだから。 「どうした、環生(たまき)。嬉しそうな顔して」 「俺…幸せだなぁって思って」 柊吾は俺の手を握って小指のリングを撫でた。 誕生日とクリスマスの合同パーティーの時に柊吾がプレゼントしてくれたピンキーリング。 さすがにハンバーグを作る時やトイレ掃除をする時は外すけど、それ以外はずっとはめている。 ブレスレットもアンクレットもはめたまま。 皆を側に感じられる俺のお守り。 「ねぇ、柊吾」 「ん?どうした」 「あのね…。指輪…俺がもらってよかったの?」 だって柊吾は事故で亡くした恋人をまだ想ってるはずだから。 指輪ってブレスレットやネックレスより、『特別感』のあるアクセサリーだと思うから…。 そんな人がいるのに、俺に指輪を贈ってよかったのかな…って、ずっと聞きたかった。 「3人で環生に何をプレゼントするか…って相談をしたんだ。俺は普段家事を一生懸命やってくれる環生の手が好きだから…指輪がいいと思った。だからいいんだ。でも、環生こそよかったのか?指輪を贈って欲しい奴いたんじゃないのか」 「いないよ、そんな人…。俺、指輪をプレゼントされたのなんて初めてだからドキドキしたし、嬉しかったよ。ずっとずっと大切にする」 指輪にキスをすると柊吾も真似をした。 指輪の後は、指や手の甲に何度も何度も。 心がふわふわくすぐったい。 だんだん唇にもして欲しくなってくる。 瞳を閉じてキスしてアピールすると、柔らかな柊吾の唇が触れる。 じっとしてたら、柊吾の手が頬に触れてまた唇が重なってくる。 甘くて優しくて羽根のように軽いキス。 瞳を開けると、柊吾が優しい眼差しで俺を見ていた。 大切に思ってもらってるのがわかって、さらに幸せ気分になる。 「続き…するか?」 「うーん、どうしようかな…」 このままキスしてたら抱かれたくなるかも。 でもちょっとだけ眠い。 柊吾もいつもより眠そうにしてる気がする。 「したい気もするけど…今夜はゆっくり過ごしたい気分かな…。柊吾は?」 「俺も…環生とゆっくりしたい。今日はやめておくか」 うなずいて体を寄せると、柊吾の表情が柔らかくなって、頭を撫でてくれた。 優しい柊吾。 きっと俺がしたいって言ったら頑張ってくれるんだろうな。 「…ずっとくっついててもいい?」 「あぁ。このまま年越しするか」 ぎゅっと抱きしめ合って、微笑み合って、時々キスをして。 柊吾に甘えて年越しできるなんて最高の年越し。 テレビからは、大切な人に巡り会えた幸せを歌ったバラードが流れていた…。

ともだちにシェアしよう!