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第7章 第10話

元日の朝の事。 誰かの話し声が聞こえて目を覚ます。 つけっぱなしのテレビからは、初詣の様子を伝えるニュースが流れていた。 昨日、歌番組を見ながらそのまま柊吾(しゅうご)と寝落ちしてしまったらしい。 「環生(たまき)、おはよう」 俺が身動きしたから柊吾を起こしてしまったみたい。 「おはよう、柊吾。明けましておめでとう」 「あぁ、おめでとう。今年もよろしくな」 チュッと新年の初キスをして体を起こす。 もうすぐ麻斗(あさと)さんが帰ってくるからお風呂をわかしておこう。 お雑煮を作ったらすぐ食べられるように、お節も並べておきたい。 お節なんて作った事がなかったけど、ネット情報と母さんが作ってくれた記憶を頼りに何品か作ってみた。 自信がなくて味見ばかりしてたら、ますますよくわからなくなった。 最終的には柊吾が美味いって言ってくれたから、そこで落ち着いたけど、これが成功なのかは今もよくわからない。 柊吾と一緒に準備をしていたら、麻斗さんが帰ってきた。 「麻斗さん、おかえりなさい。明けましておめでとう」 「ただいま、環生。明けましておめでとう」 手が冷たいけど、ごめんね…と言いながら、俺の頬に触れて新年の初キスをしてくれる。 外が寒かったから、いつも温かい麻斗さんの手も唇も冷えてしまったみたい。 一緒にお風呂に入ろうと思って麻斗さんについていくと、『せっかくのお正月だからゆっくりしていていいよ』って微笑んでくれる。 「じゃあ温かいお雑煮作ってるね」 「ありがとう、楽しみにしてるよ」 麻斗さんは俺の頬に口づけすると、バスルームへ消えた。 お風呂上がりの麻斗さんと一緒に、お節やお雑煮をお腹いっぱい食べた。 麻斗さんも柊吾もお正月らしい食事をするのは久しぶりだって喜んでくれた。 麻斗さんは今夜も仕事だから…と、食後は自分の部屋へ。 また柊吾と2人きり。 「秀臣(ひでおみ)さん、楽しんでるかな」 「どうだろうな…」 温かいお茶を飲みながらそんな事を話したり、おやつを食べたり。 そうしてるうちに眠くなってきて、一緒にうたた寝をして…。 ダラダラしていたら、あっという間に麻斗さんの出勤タイム。 麻斗さんを見送って少しすると、秀臣さんが帰ってきた。 「おかえりなさい、秀臣さん。明けましておめでとう」 「あぁ、ただいま環生。明けましておめでとう」 秀臣さんとの新年初キス。 あれ…? いつものキスと何だか違うような…。 気のせいかな…。 「もう1回キスして、秀臣さん」 ぎゅっと抱きついて唇を寄せると、秀臣さんからふわりと嗅いだ事のないトワレの香りがした。 俺はハッと気づいた。 それってもしかして…もしかする感じ? 新年会は仕事の関係者と…って聞いてたから、皆でワイワイする感じかと思ってたけど、本当は2人きりだったのかも。 だって密着しないとトワレのにおいなんてつかないよね…。 うわぁ、確かめたい。 秀臣さんに直接聞きたい。 好きな人と一緒だったの?…って。 でも、新年早々玄関でそんな話をするのも申し訳ないからグッと我慢した。 我慢したけど気になって仕方ない。 キッチンで温かいコーヒーを淹れながら秀臣さんの恋の気配に1人で盛り上がってると、柊吾が不思議そうな顔をしながらやって来た。 「何だよ、環生。ニヤニヤして」 「べ、別に…。秀臣さんが帰ってきてくれて嬉しいだけだよ」 ごまかしたつもりだけど、たぶんごまかせてない。 だって嬉しくて顔がニヤけてしまう。 柊吾に話したくて仕方ないけど、確信もないし、そんなプライベートな事、俺がベラベラ話していい訳がない。 柊吾はまだ何か言いたそうだったけど、『コーヒー入ったから秀臣さんを呼んできて』…と用事を頼んでその場をやり過ごした。

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