172 / 420

第7章 第11話

「どうした、環生(たまき)。いい事でもあったのか」 「あ…うん。秀臣(ひでおみ)さんが買ってきてくれたお土産が美味しくて」 お土産の温泉饅頭とクッキーでコーヒータイム。 もうすぐ晩ご飯の時間だけど、美味しいから食べちゃう。 早く夜にならないかな…。 今日は、秀臣さんの部屋へ泊まりに行って、好きな人と一緒にいたのかさり気なく聞いてみるつもり。 2人きりの時なら話してくれるかも知れないから。 そう思っていたら、秀臣さんのスマホが鳴った。 相手はわからないけど、仕事の話をしてるみたい。 でも、仕事の話をしてるのに、表情が柔らかいしどこか楽しそう。 もしかして、好きな人からの電話かな…。 「わかった、すぐに行くから待っていてくれ」 あ…、今からお出かけなんだ…。 電話を終えた秀臣さんは、俺たちに『すまない、今から打ち合わせだ。遅くなるから寝ていてくれ』と申し訳なさそうに告げて家を出ていった。 また柊吾(しゅうご)と2人きり。 柊吾と一緒も楽しいけど、ちょっと淋しい。 俺は皆で過ごすのが一番好きだから。 「なぁ、環生。留守番ばっかりもつまらないだろうから、初詣行かないか」 「えっ、もうすぐ暗くなるのに?」 「近所ならいいだろ」 ほら行くぞ…って言うから、急いで上着を羽織って家を出る。 ずっと暖かい部屋にいたから、外の風が冷たい。 手袋とマフラーも持って来ればよかった。 「寒いから手貸せよ」 「あ、うん…」 俺の手をぎゅっと握った柊吾に手を引かれて歩き始める。 俺より少し前を歩いて、車やすれ違う人から守ってくれてるみたい。 新年を迎えても変わらず優しい柊吾。 きっと俺が淋しそうにしてたから連れ出してくれたんだ。 柊吾が恋人だったら幸せだろうな…。 そんな事を考えながら、5分くらい歩いたところで柊吾が足を止めた。 着いたのは地元の人しかお参りに来なさそうな小さな神社。 引っ越してから半年以上たつのに、こんな近くに神社があるなんて知らなかった。 「誰もいないね」 「俺たちの貸し切りだな」 神社でも柊吾と2人きり。 今年は柊吾と過ごす時間が長くなる1年かも知れない。 手水舎もない小ぢんまりした神社だけど、静かで穏やかな時間が流れている気がして心地よかった。 『皆が笑って健康で過ごせますように』 『誠史(せいじ)さんがたくさん帰って来てくれますように』 『皆に好きな人が現れたら上手くいきますように』 『今年もこの家で楽しくやっていけますように』 『素敵な恋人ができますように』 あれもこれも一生懸命お願いしていたら、柊吾が願い事多すぎだろ…って笑った。 「寒いし、ラーメン食べて帰るか」 「うん、チャーハンと餃子も食べたい」 また柊吾に手を引かれて、柊吾の好きな中華料理屋さんへ。 昔ながらのアットホームな雰囲気。 俺がこの家に来るまで、よく出前をお願いしていたらしい。 お店のテレビでニュースを見ながら2人でニンニクたっぷりの大きな餃子を頬張る。 美味しい物を食べて美味しいねって言い合えるささやかな幸せ。 テレビからは『今夜は流星群が見えるでしょう』ってニュースが聞こえた。 「柊吾、流星群だって」 「いいな。帰ったら見よう」 マンションのベランダで見る約束をして、運ばれてきた大盛りチャーハンとラーメンを平らげた。

ともだちにシェアしよう!