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第7章 第15話
結局、朝になってもニンニク臭は消えないまま。
仕事から帰ってきた麻斗 さんに『いつものいいにおいの環生 もいいけど、ニンニクの臭いがする環生も美味しそうで可愛いよ』ってぎゅっと抱きしめられた。
麻斗さんは自然体のままの俺をよほど気に入ってくれたのか、腕の中に閉じ込めてずっと臭いを嗅いでくる。
恥ずかしいから止めて欲しいけど、抱きしめられるのも心地いい。
『このまま4人で姫始めしようか』なんて言い出すから、結局朝から4P大会。
秀臣 さんお手製のふわふわもこもこ素材の牛の着ぐるみみたいな部屋着を着せてもらって。
可愛い、可愛いっていっぱい愛してもらって。
俺もたくさん気持ちを伝えて…。
皆で仲良く楽しいお正月を迎えた。
ロンドンの誠史 さんや田舎の両親と電話したり、駅伝を見たり。
初売りに行ってみたり、ちょっとのんびりしたり。
そんな毎日を送っていたら、あっという間にもう1月半ば。
麻斗さんは新年会や成人式の二次会などのイベント尽くしで忙しそう。
秀臣さんも今年に入ってから急に忙しそうにしている。
結局好きな人の事も聞けないまま。
柊吾 と俺はますます2人きり。
朝から晩まで一緒だから、お互い1人の時間が欲しくて別々に眠ろうって話になるんだけど、1時間くらいすると何となく淋しくなってくる。
もういるのが当たり前になってるし、柊吾がいないと布団が冷たい。
淋しくなった方から声をかけて…結局一緒に眠る毎日。
今日は俺の部屋で眠る事になった。
その前にまだ仕事をしてる秀臣さんに差し入れを持っておやすみを伝えにいく。
「秀臣さん、今いい?温かいコーヒーとナッツ持ってきたよ」
「あぁ、環生か。すまない、そこに置いておいてくれないか」
秀臣さんは作業中のパソコンから目を離す。
デザイン画でも描いてたのかな…。
「お仕事忙しいの?」
「少しな。力を入れているプロジェクトがあるんだ」
「そうなんだ…。楽しみだね」
「あぁ。これを成功させて喜ばせたい相手がいるんだ」
秀臣さんの優しい眼差し。
今、大切な人を思い浮かべたのかも。
それって一緒に温泉に行った好きな人の事…?
聞いてみたいと思ったけど、仕事の邪魔になるからまた今度にしよう。
「喜んでくれるといいね。でも寒いから無理しないでね」
「あぁ、そうしよう」
おやすみを伝えて部屋を出ようとしたら、名前を呼ばれて手招きをされた。
側へいくと、パソコンデスクに座ったままの秀臣さんに腰のあたりをぎゅっと抱きしめられた。
俺のお腹あたりに顔を埋めるような仕草。
もしかして甘えてるのかな…。
可愛く感じられて、頭をそっと撫でる。
「おやすみのキスがまだだ」
「…していいの?」
「あぁ」
そっと秀臣さんの頬に触れて腰を屈める。
「おやすみなさい、秀臣さん」
「あぁ、おやすみ。環生」
チュッとキスをすると、秀臣さんのスマホが鳴った。
「すまない、環生」
「ううん、大丈夫」
おやすみなさい…と手を振って音を立てないようにドアへ向かう。
「あぁ、俺だ。さっきの件だが…」
一瞬、好きな人かな…と思ったけど、仕事の電話みたい。
相手の人もこんな時間まで働いてるんだなぁ…。
こんな時間まで仕事に打ち込んでる秀臣さんは大変そうだけどキラキラしてる。
プロジェクトが成功しますように…。
俺は心からそう願った。
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