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第7章 第22話side.麻斗
〜side.麻斗 〜
「麻斗さん、来たよ」
「待ってたよ、環生 。おいで」
うん…と返事をしながら俺のベッドへ潜り込んでくるお風呂上がりの環生。
クリスマスからの年末年始、新年会、成人式。
イベント続きで忙しかったから、今日明日は久しぶりの連休だ。
環生とゆっくり過ごせる今日が楽しみだった。
環生と触れ合って癒されたい。
あまりかまってあげられなかったから、環生も甘やかしてあげたい。
一週間前、仕事から帰ったら秀臣 の代わりに、恋人を名乗る藤枝 さんがリビングにいて驚いた。
突然の事だったけど、柊吾 も環生も当たり前のように彼を受け入れていたし、彼も打ち解けた様子だった。
話をしてみたら、公私共に献身的に秀臣を支えてくれる素敵な恋人だと感じた。
全員揃った今夜はお祝いだから…と、環生がちらし寿司を作った。
秀臣の口からも恋の話を聞きたいと、興味津々な環生と、そこまで突っ込んで聞くなよ…と呆れ顔をする柊吾と一緒に、2人の馴れ初めや彼の好きなところを聞いた。
照れながらも彼の事を話す秀臣は、優しい眼差しをしていた。
「秀臣さん、幸せそうでよかったね」
羨ましくなっちゃった…と、ふわふわ微笑みながらぺたっと密着して頬を擦り寄せてくる。
嬉しそうにしているけど、どこか淋しそうな気配。
今日の環生はいつもより甘えん坊。
俺に甘えて淋しさをごまかそうとしているのかも知れない。
抱きしめて頭を撫でると、気持ちよさそうに瞳を閉じる。
きゅっと俺の胸に手を添えながら。
「秀臣に恋人ができて淋しいの?」
「…っ……」
環生の動きが止まる。
だんだん指先に力が入ってきて、スウェットをぎゅっとつかむ。
何かを我慢するようなそぶりの環生。
「淋しかったら淋しいって言ってもいいんだよ?」
ゆっくり背中を撫でると、環生が困ったような顔をして俺を見た。
「…本当は…ちょっとだけ。最初は嬉しいって感情が大きかった。でも…秀臣さんが遠くに行っちゃった気がしてだんだん淋しくなってきて…。でも、それが秀臣さんの幸せだから我慢しなくちゃと思って俺…」
だんだん潤んでくる瞳。
秀臣に恋人ができた事を喜ぶ反面、秀臣をとられた気がして淋しかったのかも知れない。
環生は秀臣に懐いていたし、秀臣も環生を可愛がっていたから。
「環生…ずっと我慢してたの?」
「うん…。いつまでもこのままの関係でいられないってわかってたし、覚悟もしてたつもりなんだけど、その時がきたらやっぱり淋しい。それに…秀臣さんとどう接したらいいかずっと迷ってて…」
悲しみと戸惑いの入り混じった複雑な表情。
本当は秀臣に甘えたいのに、遠慮して我慢していたんだろう。
「秀臣が淋しがってたよ。最近環生がよそよそしいって」
「だって…まだ自分の中で整理がついてなくて…。賢哉 さんに今まで通り秀臣さんとセックスしてもいいって言われた事…」
環生が思い悩むのも無理はない。
恋人公認で秀臣と日常的にセックスするのは気が引けるんだろう。
「秀臣も気にしていたよ。本当は環生に触れたいのに、環生を性欲の捌け口にしてると誤解されて嫌われるのが怖いって」
どちらも今まで通り触れ合いたいと思っているのに、お互いを思いやって怖がって避け合っている2人。
そんな2人をいつもの仲のいい2人に戻れるよう手助けしてあげたい。
「…麻斗さんならどうする?好きになった人が同じタチだったら、自分以外の人とエッチな事してもいいって思う?」
真剣な環生の眼差し。
きっとずっと考えていたんだろう。
「俺は…元々セックスに対して淡白だし、苦手意識が強くて、きっと誰と恋人になっても満足はさせてあげられないから…。俺は誰か他の人とセックスしてもらってもかまわないよ。でも、一緒に眠ったり、触れ合ったりはしたいとは思うから、完全に切り離されると淋しいかな」
優しく手を握ると、環生も嬉しそうに握り返してくる。
恋人と体を繋げる事に重きは置いていないけど、こうやって触れ合って見つめ合って、2人だけの会話は楽しみたいと思う。
「柊吾はね、相手には自分だけを見て欲しいから、たぶん最初から好きになりきれないし、仮に付き合い始めても上手くいかないって言ってた。俺も好きな人を独り占めしたいって思うから嫌だけど…」
「だけど?」
「もし好きになった人が俺と同じで、抱かれる事が幸せって思ってる人で…その人がどうしても抱かれたがったら、嫌だとか、だめって言えない気がして…」
苦しそうな表情で俺の手をぎゅっと握る。
「嫌なのにいいって言うの?」
「…だって、抱かれるとあったかくて、気持ちよくてすごく幸せだから…。俺は麻斗さんたちに抱かれてその悦びを知ってしまったから、それをだめって言えない。それに…俺も一生麻斗さんたちとエッチな事しないでって言われたら耐えられない…」
潤んだ瞳で思いを口にする環生。
その一生懸命さが可愛らしい。
きっと好きな人ができたら、その人で頭がいっぱいになって、俺たちの事なんて忘れてしまうはずなのに。
俺たちとの行為で悦びを知ったなんて言われたらますます大切にしたくなる。
この先も俺たちに抱かれたいって思う環生の気持ちが嬉しい。
秀臣や柊吾にも聞かせてあげたい。
「藤枝さんには藤枝さんの考えがあるからね。環生が共感できる部分もできない部分もあるんじゃないかな」
「…そっか…。そうだよね」
確かに…と、自分に言い聞かせるようにつぶやく環生。
「藤枝さんもいいって言ってたし、秀臣だって変わらず環生を大事にしてるんだから、今まで通りでいいと思うよ」
きっと彼も、自分が恋人になる事で秀臣と環生の関係がぎくしゃくするのを望んではいないだろうし、ありのままの秀臣を心底愛している感じだったから、きっと秀臣が誰を抱いていても気にならないんだと思う。
「うん…、そうだね。俺…自然に任せてみる。今までみたいに秀臣さんとエッチな事したいって思ったらするし、したくない時はしない」
「そう、環生の感じるままでいいよ」
我慢も無理もする必要はない。
最初からこうしなくちゃと決めつけなくてもいい。
少しずつ恋人持ちの秀臣に慣れていって、秀臣との時間も楽しめばいいと思った。
「ありがとう、麻斗さん」
少しは胸のモヤモヤが解消されたのか、スッキリした様子の環生は俺の頬に唇を寄せる。
その仕草が可愛くておでこにそっと口づけると、嬉しそうにする。
喜ぶ顔が見たくて、こめかみや瞼にキスをすると、だんだん瞳が甘さを増していく。
「…麻斗さん、もっとして…」
うっとりした表情でちょっと頬を染めた環生のおねだり。
膝を擦り合わせてモジモジしながら先を求め始めた。
まだ唇にも触れていないのにこんな風になるなんて。
もしかしたら、秀臣や藤枝さんに遠慮したり、柊吾の勉強の邪魔をしないように気をつかったり…で、いつもほど満足に抱かれていないのかも知れない。
「環生…気持ちいい事したくなっちゃった?」
「…うん…。いい?」
環生は期待を込めた眼差しで俺を見つめる。
皆でセックスする時は、流れで抱いて欲しがる時もあるけど、2人きりの時は俺にプレッシャーを与えないよう、前でイカせてとねだる環生。
でも、今日はちょっと様子が違う。
いつもの2人きりの時より物欲しそうな潤んだ瞳。
中でイキたい時のおねだり顔。
あぁ、きっとお尻が淋しいんだ。
でも、俺相手だから遠慮して言えずにいるんだ。
「今日は…環生に挿れたい気分」
いい…?と、耳を甘噛みすると、環生の体がビクンと跳ねた。
最後までできる自信はないけど、何とかして環生を満たしてあげたい。
例え少しの間だけでも。
「麻斗さん…いいの…?」
「環生がいいなら挿れたいよ。一緒に体の準備をしようか」
頬を撫でて見つめると幸せそうに微笑む環生。
そんなに嬉しそうにされたら頑張りたくなる。
俺はそっと鼻の頭にキスをした。
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